トキワシティに引き返して来た少年は、タウンマップを見つめていた。この先進むにしても、やはりあの道を行くしかない…。その道というのは、トキワシティから北に伸びる道。ニビシティに繋がる通路の事だ。だが、そこに向かうには問題が一つあった。『ういーっ!ひっく……待ちやがれ! わしの話を聞け!』少年は、あのクレイジーな爺を思い出していた。あの爺がいる限り、その先へ進む事は叶わないだろう。「酔っ払いめっ!…」だが、他に行く当ての無い少年は、駄目元で、もう一度あの場所を訪れる。すると、驚くことに、あの爺がいなくなっているではないか!「今がチャンス!」だが、まだ安心は出来ない。あのイカれた爺の事だ。どこかに身を潜め、監視し、『……こら! 行くな!と言っとろーが!』あの決め台詞を吐き散らし、行き交う人々の通行を妨げているに違いない!だが、少年は、爺の欠点に気付く。それは、奴がその場に待機していない事だ!以前は、あの狭い通路に横たわり、異常な足技で、来るものを阻んでいた為、通る事が出来なかった。だが、今回は違う!覚悟を決めた少年は、勢いよく駆け出して行く!その全力の猛ダッシュに砂埃が上がり、遂に、あの場所を通過する!「やった!やったぞっ!遂に通過してやったぞっ!フハハッ!…残念だったな爺。もはや老いぼれたキサマの、その足では追い付けまいっ!」そう心の中で、勝ち誇った様に高笑いをする少年は、ギラギラと輝かせる瞳の下で、口元に不敵な笑みを浮かび上がらせた。「うーん……」突然、傍らから聞こえてきた奇妙な唸り声に気付き、少年は声のした方に振り向く。「うわっ!」目にした光景に驚きのあまり、少年は、うかつにも叫び声を上げてしまう。そこには、有ろう事か通行人を待ち伏せ続けていたはずのイカれた爺が立っているのだ。何故コイツがここにいる!?まさか、走り抜けて来る事を予測し、この付近で待機していたというのか!?「クソっ!ハメられた!」そう思わずにはいられない少年は、自分の浅はかな考えを悔やみ、勝ち誇った様な不敵な表情も、一瞬にして曇り、しわくちゃの梅干しの様な悔し顔へと変わる。逃げようにも、猛ダッシュの末、息を切らし、あまり身動きが取れない。「酔っ払ってた みたいじゃ!頭が痛い……」頭を抱えながら呟く老人の姿を、静かに見つめるしかない少年。「時に、お急ぎ……かな?」そんな問いを掛けられ、お急ぎだが、身動きの取れない少年。【はい】と言って通り過ぎようと、必死になって駆け出したとしても、このイカれた爺に回り込まれて捕まるのが関の山だ。ここは大人しく言う事を聞くのが無難だろう。額から滲み出る汗を手の甲で拭い、息を切らしながら、首を横に振る。その行動で【いいえ】を伝えると、老人はニヤリと笑い、その小さな眼でアレを見つける。「ほっほう!ポケモン図鑑 作っとるか」その発言を聞き、少年の目が見開く。「何故分かった!?図鑑を作ってる事は一言も言ってないぞ!」疑問に思った少年が振り返ると…「っ!しまった!」そう思った少年の視界に映っていたのは、リュックのサイドポケットから、はみ出すポケモン図鑑だった!面倒くさがりの少年は、新たなポケモンを見かけるたびにリュックから出し入れする図鑑のうっとうしさのあまり、自分でも気付かぬ内に、博士から預かったハイテク機械をサイドポケットに入れ、世間にさらしてしまっていた。「だが、何故この爺がポケモン図鑑の事を知っている!?」という疑問よりも「その小さな眼に関わらず、なんという視力だ!この爺…侮れん!」という気持ちが上回り、向き直した視界の傍らに立つ爺を警戒し、身構える!「しかも、この爺…何か底知れぬ洞察力を感じる!」少年は、自分が見透かされる様な感覚に囚われ、思わず息を吞み、得意の苦笑いを浮かべる余裕すら無い。「なら わしから アドバイスじゃ!ポケモンを捕まえて調べれば自動的にページが増えていくんじゃよ!」笑顔で自慢げに語り出す爺を見ながら「そんなことは知っている」などという爺を挑発する様な言葉を発せられる訳もなく、静かに頷いていた。「なんじゃー 捕まえ方を知らんのか!では……わしが お手本を見せてやるかな!」急に張り切り出した爺を見て、ふと我に返り、ハッ!と驚く。「しまった!」知っている事ばかり語り出す老人に気が付けば自然と相槌を打っていた少年は、知らず知らずの内に、恐らく「お前さん ポケモンの捕まえ方 知らんのではないか?」的な問い掛けにも頷いてしまっていたのだろう。爺に笑顔で腕を掴まれ、グイグイと林の中へと連れて行かれる少年は、重大な事に気付く。最初の問いの答え【いいえ】。それこそが運命の分かれ道だったという事に!だが、それに気付いたところで、もう手遅れだ。事件は現場で起きている!が、結構手前で老人の足が止まる。老人の視線の先を見ると、木を這う様に登って行く、トキワの森での目撃情報が多い〔けむしポケモン〕のビードルがいた。老人は、静かにモンスターボールを取り出すと、鋭く狙いを付けたビードルに、それを投げ放った!投げ放たれたボールは、レーザービームの様に一直線に、凄まじい速さで飛んで行くとビードルの後頭部に命中し、ビードルはボールに吸い込まれ、そのままボールと共に地面に落ちてくる。その僅か数秒間の内に、ほぼ音も無く行われた神業に、息つく暇もなく少年は、その驚きに目を見開き、只々立ち尽くす事しか出来なかった。地面を転がったボールの真ん中にあるボタンは赤く点滅するが、ボールに入ったビードルは外に出ようと暴れる様子はない。やがてボタンの点滅は終わり、モンスターボールを拾い上げる爺。恐らくビードルは、自分が捕まった事すらも気付いていないのだろう。驚きが表情に現れ、固まってしまった少年は、こう思った「将に密林のスナイパー!」。林から道へ、共に戻ってきた老人は「初めの内は ポケモンを弱らせてから取るのがコツじゃ!」と、自己満が終わり、満面の笑みで語ると、少年を解放し、そこらをぶらつき始める。その腰が曲がり、ぶらつく姿を見て「なんて身勝手な爺なんだ…」と、クレイジーに思う反面、ビードルを一瞬で捕らえた神業に、感服した少年は「達人の領域に達した者は、こういうイカれた奴が多いのかも知れない。昔は数多くのポケモンを捕らえてきたエキスパートだったのだろう」と思う少年は、その敬意を表し、クレイジー爺、名を改め、自己満爺。というレッテルを貼ると、その場を後にする。ニビシティへと向かうため、街を出ようとする少年に、分かれ道が現れる。それは以前、自己満爺に行く手を阻まれ、辿り着く事の出来なかったトキワジムへと伸びる通路だった。その事をすっかり忘れていた少年は、刷り込みが行われているポケモンスクール的な場所での事を思い出し、ジムへと歩き出す。「見てろよ!ジムリーダー!お前を叩き潰してやる!」と、会った事もない相手に、闘志をメラメラと燃やす少年は、遂にトキワジムの前へと辿り着く。目の前に聳え立つ巨大な建物は遠くで見た時とは比べ物にならないならない程、巨大で、力強く聳え立っている。まるで城壁の様にも見えるその外装には、近くで見ると、ますます巨大に見えるGYMの文字。その建物の脇に立つ看板にも目を向ける。そこには『トキワ ポケモンジム』と書かれていた。「って、どんだけ目立ちたがり屋だよっ!」と、シンプルなツッコミを入れる事なく入口へと進んだ少年は、そこに取り付けられた大きな手動ドアを掴み開く。ガシャッ!だが、ドアは開かれる前に音を立て、止まる。よく見るとドアには大きな南京錠で鍵が掛けてある。すると近くを通り掛かった老人が、おもむろに話し掛けてきた「いつ来ても このポケモンジムは閉まっとる 一体どんヤツがリーダーをしとるんじゃろか?」首を傾げながら語る老人の言葉を聞きいた少年は、この事の真のクレイジーさに気付かされる。「遠くからは大きく書かれたGYMの文字で誘い、それに誘われて来た者を段差の仕切りによって拒み、通路に放たれた刺客、クレイジー爺が進行を阻み、必死に抗い、藁をも掴む思いで、ようやく辿り着いた入口で、有無を言わさず門前払い!」少年は、燃え上がる怒りを必死に抑え、呟く。「なんてクレイジーなんだ…」静かに怒りを燃やす少年だったが、顔色は赤く染まり、その表情は鬼の形相へと変わってしまっていた。行き場のない怒りに、地面を踏みつけながらその場を後にした激おこぷんぷん丸は、ニビシティへと続く道、木々が所狭しと生い茂るトキワの森へと足を踏み入れるて行く。
【初代ポケモン・赤】中二病ポケモンマスターへの道 ブログ小説④
『サトシには貸さない様に姉ちゃんに言っておくから 俺ん家へ来ても無駄だからな!』研究所の外へ出た少年の脳裏に、先程の嫌味ったらしい言葉が甦ってきた。だが、地図があるのと無いのとでは大違いだ。この先、旅をするのにタウンマップは必要になってくる事だろう。アイツにはダメ押しされていたが、幼馴染の家を訪れた少年は、玄関のドアをノックする。「はーい」中から声が聞こえ、ドアが開かれる。中から出てきたのは幼馴染のお姉さんだった。少年も、この人に会うのは久しぶりだった。幼馴染の家庭は、シゲル、お姉さん、オーキド博士の三人で暮らしている。こちらも相当複雑な家庭の様だ。久しぶりに見る少年に、微笑んだお姉さんは、「オーキドの お爺ちゃん お仕事頼んだんだって?」と問を掛けてきた。その言葉を聞き、やはりアイツの手が回っていた事に気付いた少年は、「一足遅かったか…」と思うが、先に研究所から出て行ったシゲルからすれば当然の事だ。「大変ねー」他人事の様に話すお姉さんは、何かを取り出し、持ってくる。「これ あげるから使って!」手渡された物を見て驚く!それは、シゲルから貸さない様にとダメ押しされたであろうタウンマップだった。「貸さぬ様言われたはずのタウンマップを?しかもタダでくれるだと!?」手にした思いがけない物を見て驚き、向き直した少年の目に微笑むお姉さんが映る。「自分のいる場所や街の名前が知りたい時 タウンマップ 使うといいわよ」と少年に使い方を教え、優しく微笑んだお姉さん。あの嫌味ったらしい弟とは大違いのお姉さんの慈悲深さに感服致した少年は、感謝のお辞儀をすると、幼馴染の家を後にする。マサラタウンから北に位置するトキワシティへ、もう一度向かうため歩き出した少年は、ある事に気が付く。それは、旅をする事をまだ母親に伝えていないという事だった。それに気付いた少年は、ポケモンを貰ったあの日から帰っていない自宅のドアを開ける。中に入ると、椅子に座る母親は、ブラウン管テレビに映る午後のワイドショーを今日も眺めている。いつもと変わらない光景に少年は、呆気に捕らわれるが、内心ホッとしていた。「サトシ……! 少し休んで行ったら どうかしら……?」帰ってきた息子に気付いた母親は、あまり多くは語らず、そう問い掛けてきた。静かに頷いた少年は、二階の自分の部屋で横になる。少し休むと一階へ降りてきた息子の顔を見て、微笑む母親は、「あらあら! あなたもポケモンも元気いっぱいね! それじゃ 気を付けて! 行ってらっしゃい!」と快く送り出す。ポケモンを貰った事も、これから旅に出る事も伝えていないのに、その全てを理解した上で送り出す様な言葉。「何も言わずとも全てを理解する常識を超えた現象!…もしや!悟りを開き、神の領域に達したというのか!?」ブラウン管テレビから聞こえてくる午後のワイドショーのBGMを背中で感じながら、玄関のドアを開ける少年は、振り返らずに、自宅を後にする。トキワシティへ向かう途中、見覚えのある後ろ姿を目撃する。その胡散臭い後ろ姿は、マサラタウンを旅立ったあの日、少年の脳裏に焼き付いた物と全く同じ姿だった。その立ち並ぶ木々に顔を付け、通路側に立つ少年に背を向けて立っている人物、恐らくマサラから来る初心者トレーナーを待ち伏せているのだろうが、今の所マサラから旅立つトレーナーは自分とアイツ以外にいない。この先、需要は見込めないだろう。店長も見切りを付けて引き揚げさせた方が良い。そんな事を考えながらも、他人事に首を突っ込まない少年は、声を掛ける事無く街を目指す。トキワシティに戻ってきた少年は、少ない小遣いをほぼ全額ぶち込み、モンスターボールをまとめ買いすると、フレンドリィショップから出てくる。草むらでサクッとコラッタとポッポをゲットした少年は、まだ進んだ事の無い新天地。タウンマップで調べるとトキワシティから西へ伸びる通路、22番道路に来ていた。生い茂る草むらから飛び出してくるポケモンに育ち盛りのヒトカゲが、次々とワンパンを決めていく。この爽快感に酔いしれる少年は、ちゃっかり毒針ポケモンのニドランの♂♀ペアもゲットし、絶好調だった。「この辺りで我に敵う者はいない!」優越感に浸りながらニヤ付き顔が止まらない少年は、更なる高みを目指し、歩みを進める事にする。タウンマップを開くと、この先を進めばチャンピオンロードとかいうロードが書いてあった。「この先を進めばチャンピオンが自分を待っているのか!」そう思う少年は、ヒトカゲがチャンピオンのポケモン達をワンパンしていく姿を思い浮かべ、その更にニヤ付く顔は傍から見れば、もはや変人の域だ。その表情を維持したまま歩いた先、「あーッ!サトシ!」自分を呼びかける聞き慣れた声に歩みが止まる。ふと我に返り、戻された現実の視界に、いきなり目の前に現れるライバルに驚き、「うわっ!」と、叫び声が出てしまいそうな口を寸前で閉じ、声を呑み込む。「何やってんだコイツ?」と言わんばかりの馬鹿にした様な表情を浮かべるライバルに必死で平然な表情を作る。「ポケモンリーグに行くのか?」突然の的を射た問い掛けに、「どうしてそれを!?顔に出ていたのか!?」平然を装う事が出来ないほどの驚きと疑問は、遂にその表情に現れてしまう。その図星の表情を見たライバルは、鼻で笑うと、いつも通りのキザな笑いを浮かべ、「やめとけ! お前どうせバッジ持ってねーだろ?」と言い放つ。「バッジ?何を言っているんだコイツは」さっぱり分からない問い掛けに少年は、困惑する。「見張りの おっさんが通してくれねーよ!」その言葉を聞き、目の前にいるコイツは追い返されて来たと気付いた少年は、いつも馬鹿にされてる仕返しに、小馬鹿にする様に心の中で笑った。「……それよりさあ!お前のポケモン 少しは強くなったかよ?」開き直り、話題を変えたライバルは、相変わらずのキザな態度で、勢いよくポケモンを繰り出してきた!またコイツの我がままで仕掛けられたバトルだったが、鍛えられたヒトカゲを戦わせたくてウズウズしていた少年は、俄然やる気に満ち溢れ、腰に掛けていたモンスターボールを掴み取り、構える。「丁度いい、チャンピオンをぶっ倒す前の肩慣らしだ!!」そう心の中で思った少年は、自信に満ち溢れ、力強く見開かれた眼力の下で口元が不敵な笑みを浮かべる。「ゆけっ!ヒトカゲ!」決めゼリフと共に勢いよくポケモンが飛び出す!草むらで鍛えられたヒトカゲの前に、立ちはだかるライバルのポケモンは、あの戦い慣れた一般的な小鳥ポケモンのポッポだった。だが、野生で見るのとは違い、隙の少ない立ち振る舞いに対し相手の裏をかくには、新しく覚えたこの技しかなかった!「ひのこだ!」少年の掛け声と共に、狙いを付けたヒトカゲの口から勢いよく放たれた【ひのこ】は、さっきまでのキザなニヤ付き顔が驚きと焦りに変わるライバルのポッポに力強く飛んで行く!「かわせ!」一瞬遅れて掛けられた声に動き出そうとする間もなく【ひのこ】に呑み込まれたポッポは、身体に付く炎を振り払うが、それでも身体にかなりのダメージを受けてしまい、動きが鈍る。これは、チャンスだ!少年の掛け声で素早く駆けだしたヒトカゲは、一気に距離を詰め、鋭い爪を剥き出しにし、ポッポの身体に襲い掛かる!「今だ!」その掛け声を聞き、ヒトカゲをギリギリまで引き付けたポッポの鉤爪で巻き上げられた地面の砂は、勢いよくヒトカゲの瞳に命中する!目に入ってた砂で、狙いが定まらなくなったヒトカゲの【ひっかく】攻撃は、動きの鈍ったポッポにも簡単にかわされてしまう。「かぜおこし!」ライバルの掛け声で、ポッポの傍らで体勢を崩すヒトカゲに、近距離からの繰り返し羽ばたかれた風の渦が勢いよく襲い掛かる!「かわせ!」背後から聞こえる少年の叫び声に動き出そうとする身体は、勢いよく渦巻く風の流れに逆らえず、為す術なく呑み込まれ、弾き飛ばされる!「ヒトカゲ!」飛ばされた先の地面で転がり、起き上がるヒトカゲに少年が呼び掛ける。見たところ、あまりダメージは受けていないようだが、やはり目は開き辛い様だ。「かぜおこし!」ライバルの掛け声と共に、畳み掛ける様に勢いよく羽ばたかれた風の渦が急速に迫ってくる!普段のヒトカゲなら、かわす事も出来るはずだが、視界を狭まれたこの状況では回避する事は難しいだろう。「どうする!?」額に汗を滲ませる少年は【かぜおこし】が命中するまでの数秒間で考えを巡らせる。そうだ!と、とっさに思い付いた策に少年は賭け、口元が動く。「風が向かってくる方向に、真っ直ぐ全力で、ひのこだ!」その少年の掛け声に、視界を狭まれたヒトカゲは身体を通り過ぎてゆく風の流れに向き直すと身体を仰け反らせ、腹の底から勢いよく【ひのこ】を吐き出す!力強く吐き出された【ひのこ】は、直撃寸前まで近付いていた【かぜおこし】とぶつかると、それを風船を割る様に、いとも簡単にかき消し、風の流れは分散し、周りに散る。風の渦をかき消した、火球の様に勢いよく真っ直ぐに飛んで行く【ひのこ】の向かう先には、ポッポが地面の砂埃を舞い上げながら翼を羽ばたかせ、風を送っている。少年が思った通り、放たれた【かぜおこし】の直線上には、やはりライバルのポッポがいた。まさかの、風の渦を貫通して飛んでくる火球、思ってもいなかった事態にライバルの指示が遅れる「かわせ!」叫び声を上げるが、手遅れだ。勢いよく真っ直ぐに向かってきた火球の様な【ひのこ】がポッポの身体に直撃する!燃え盛る【ひのこ】に包まれ、弾き飛ばされたポッポは、飛ばされた先の地面で転がり、目を回し倒れる。少し悔しそうな表情に変わったライバルは、ポッポをモンスターボールに戻すと次のポケモンを繰り出してきた!そのポケモンは少年も知っている、あのポケモンだった。全身を青く染め、硬い甲羅で身を守る亀の子ポケモン。このポケモンを見るのは、博士から初めてポケモンを貰ったあの日以来だ。一瞬ニヤ付いた様に見えたライバルの口元が動く。「ゼニガメ!あわだ!」その掛け声に、構えたゼニガメの口からシャボン玉の様に無数に吐き出された【あわ】は、ヒトカゲの身体をゆっくりと包み込む。「何だ?この技は、これがゼニガメの新しい技なのか」と、どう見ても普通の泡にしか見えない少年は、「泡風呂みたいだ」と、呆れた様な表情でヒトカゲに向き直す。だが、そこには苦しそうに【あわ】に耐えるヒトカゲの姿があった。ほのおタイプのヒトカゲにとって、みずタイプの技【あわ】は弱点に当たる。その事を思い出した少年の表情は焦りを浮かべる。油断していた間に周りを【あわ】が埋め尽くしてしまっていたのだ。「すなかけで視界を奪い、あわで取り囲み継続的にダメージを与える作戦か!」と気付くが、もう遅い。威力は低そうだが、ヒトカゲにとっては苦しい状況だ。「どうする!?」焦る気持ちに額にかく汗が流れ落ちてくる。指示を出そうにも視界の狭められたヒトカゲを【あわ】の届かない所まで誘導するのは難しい。まずは、これをどうにかするしか…「!」ここで、ある考えが閃き、少年の口元が動く。「あわに顔を付けろ!」意味の分からない発言に、ライバルは馬鹿にした様に首を傾げる。「血迷ったか?」呆れるライバルの視界の先で、指示通りに苦手な【あわ】に顔を付けるヒトカゲ。それを確認した少年は更に指示する「目を開き、砂を洗い流せ!」その発言を聞き、ハッ!としたライバル。「させるな!たいあたりだ!」その傍らで立ち、【あわ】を吐き出し続けていたゼニガメは、口を閉じると駆け出し、地面に無数に吐き出された【あわ】に甲羅の腹側で滑り込む様に勢いよく飛び込むと、割れ出した【あわ】の地面に残る水気を利用し、一気に滑り抜けて行く!「この時を待っていた!」急速に近付い来る、真っ直ぐに地面を滑る甲羅の音、視界が狭まれた状態のヒトカゲでも攻撃を当てる事は容易い。「近付いて来る音に耳を傾けろ!」その言葉を聞き、囲まれた【あわ】の中で静かに力を溜める様に構えを取るヒトカゲは、鋭い爪を剥き出しにする。「駄目だ!引き返せ!」今から起ころうとしている状況に気付き、声を荒げたライバルだったが、勢い付いた加速する甲羅をゼニガメは止められない。「今だっ!ひっかく攻撃っ!」少年の掛け声と共に放たれた力強い【ひっかく】は、急速に近付いて来た青い甲羅にカウンターを喰らわす様に豪快な一撃を浴びせる!抜群のタイミングで引き裂かれた甲羅は、まるでホームランを打たれた様な凄まじい勢いで、後方に弾き飛ばされた先で、木にぶつかり、落ちた地面で回転する。「ゼニガメ!」呼び掛けるライバルの声に、甲羅から顔を出したゼニガメは、残り僅かな力を振り絞り、立ち上がろうとする。あの凄まじい攻撃に対し、とっさに甲羅に身を隠したゼニガメの判断は正しかった。生身に当たっていれば、即戦闘不能になっていただろう。少年は、ヒトカゲに向き直すと、そこには目に入った砂が取れたであろうヒトカゲの瞳と目が合う。静かに頷いた少年は、自信満々に言い放つ。「畳み掛けろっ!ひっかく攻撃だっ!」その掛け声を聞き、ゼニガメの滑って出来た【あわ】の無い直線の道をヒトカゲは駆け抜けてゆく。ゼニガメとの開戦時から、足にまとわり付いた【あわ】に速度を下げられるも、鍛えられたヒトカゲの取っても余りある素早さに、ゼニガメとの距離は見る見るうちに縮まってゆく。やっとの思いで立ち上がったゼニガメの視界に、鋭い爪が襲い掛かる!「あわだっ!」ライバルの掛け声に、口から吐き出された無数の【あわ】が鋭い爪に、先に吐き出された方から順番に勢いよく割られてゆく!次々と割られる【あわ】、遂にゼニガメの顔が姿を現す!「決めろっ!」後ろから聞こえる少年の掛け声に、力を込めたヒトカゲの【ひっかく】が頭部を捕らえる!その衝撃で地面を転がったゼニガメは目を回し、倒れる。「あーッ!」叫び声を上げ、ゼニガメに駆け寄ってきたライバルは無事を確認するとモンスターボールに戻す。「こいつ舐めたマネを!」思った事を直ぐ口に出すライバルは、言葉にすると同時に、不機嫌そうな顔で、こちらを見てくる。その後、近付き、拳が突き出される!少年は「憂さ晴らしに殴られるのか!?」と思い、身構える。が、その拳は少年に当たる前に止まり、そこで開かれ、握り拳の中からアレが出てきた。少年は、賞金として280円手に入れた!見掛けによらず意外と律儀なヤツだ。この世界では負けた方が勝った方に賞金を渡す。そういうルールになっている…らしい。「どうやらポケモンリーグには 強くて凄いトレーナーがウジャウジャいるらしいぜ」さっきまでの不機嫌な態度から一変し、開き直った様に、話題を変えて話し出すライバルに、少年は、一瞬驚かされる。嫌味なヤツだが、そういう後腐れの無い所は立派だ。「どうにか あそこを通り抜ける 方法を考えなきゃな!お前も いつまでも ここらに いないで とっとと先に進めよ!」と勝負に負けた事も忘れたのかと思うほどに、キザなニヤ付き顔を満面に浮かべたライバルは、去り際にまたキザなピースを投げ、その後ろ姿は見えなくなった。勝負には勝ったが、少年は、少し苛つく。ライバルには念押しされたが、ポケモンリーグ側に歩みを進め出した少年に、看板が見えてくる。『ここはポケモンリーグ正面ゲート』立ち並ぶ柵の間にある看板から見上げると、そこには巨大な建物が聳え立っていた。近くまで来ると、その巨大さが、更に際立ち、城壁の様に聳え立っている。ウィーン…の割に意外と小さめの取り付けられた自動ドアが音を立て、開く。中に入ると、開けたフロアに一直線に絨毯が敷かれ、その先に大きな扉、その傍らに立つ一人の男、絨毯の四隅にはポケモンを象った、大きな銅像が飾られている。堂々と絨毯を歩いてきた少年が大きな扉の前まで来ると、傍らに立つ男が、遂に話し掛けてきた。「ここから先は本当に強いポケモントレーナーだけ通れます」警備員の様な格好の胡散臭そうな男は、そう語り掛けてくる。恐らく警備員だろう。「あなたは まだグレーバッジを持ってませんね!」その吐き出された言葉と同時に効果音が鳴り響く!「ぶっぶーーッ!」突然の出来事に、ビクッ!と動いた、驚く少年の目が見開く!「何だ!?今の効果音は!!」そう思った少年は、周囲を確認するが効果音が鳴りそうな物は見当たらない。「って事は、傍らに立つ、このおっさんが腹話術の原理で効果音に似た声を発したって事か!!」そう結論に至り、改めて警備員に向き直す。「…だとすれば相当クレイジーな奴だ!」考えを巡らせていた少年の額から冷や汗が流れ落ちる。「決まりですから通す訳には いきません!」真面目そうに言い放たれた一言に、あの言葉を思い出す。『見張りの おっさんが通してくれねーよ!』ライバルが言っていた言葉を思い返し、少年は、気付かされる。「見張りの、おっさんとはコイツの事か!」だが、分かったところで、どうという事は無い。「あっ!UFO!とか言って、注意が逸れるた隙に扉を開き中に入る。だが、腹話術で効果音を出してくる様なクレイジーな奴に、そんな子供だましが通用するか?答えは限りなくNOだ!そもそも、あの扉には鍵が掛けてあるんじゃないのか?…」考えを巡らせていた少年は、ふと我に返る「アホ臭っ!」馬鹿馬鹿しい考えを巡らせていた自分に、恥ずかしさが押し寄せてきた少年は、帽子を深々と被り、警備員に背を向け、歩き出す。「チャンピオン!命拾いしたな!」とかいう恥ずかしい捨て台詞を吐く事もなく引き返した先の自動ドアが開き、外へ出た少年の見上げた視界に、どこまでも続く青空が広がっていた。
【初代ポケモン・赤】中二病ポケモンマスターへの道 ブログ小説③
観光気分で情報収集を続ける少年は、ポケモンスクール的な場所を訪れていた。一戸建ての部屋の中は、そこまで広くないフロアに机と椅子が置かれ、生徒は席に着き、ノートを広げる。教室の奥の壁に黒板があり、その傍らに立つ教師は「はい!黒板に書かれてる事 ちゃんと見て!」と檄を飛ばす。と、言ってもこの部屋を見る限り、教師一人に対して生徒が一人、マンツーマンで教育している。それに対して黒板は要らない気もするが、それよりも仕事として採算は取れているのか?それともこの少女の親から莫大な報酬金を頂いているのか!?そんな考えを巡らせながら、少女に気付かれぬ様にノートを覗き見る。『ポケモントレーナーの目標は各地のジムにいる 強いトレーナー8人集を倒すこと! 更にポケモンリーグ本部には……猛烈に強い! 四天王が君臨している!』なるほど……ここでトレーナーの目的を刷り込まれているのか!「あー!ノート見ちゃだめ!」その叫びに振り向いた少年を少女がガン見していた。「しまった!」っと我に返った少年は、知らず知らずの内に自分がノートをガン見していた事に気付き、白々しい真顔を作るが、もう手遅れだ。授業を邪魔されたことで、今にもチョークを投げてきそうな教師の真顔に対し、真顔で見つめ返した少年は、足早に、教室を去る。外へ出ると少年は、少女のノートに書いてあったジムとやらを探す。中央辺りの開けた場所から周りを見渡すと一際目立つ巨大な建物が目に飛び込んできた。その巨大な建物に、いったいどこの目立ちたがり屋が、これ見よがしに書いたのかと思うほどに大きく書かれたGYMの文字を見た少年は、自然と口を開け、呆気に捕らわれていた。気を取り直し、ジムのすぐ近くまで歩いてきた少年の視界に、段差が現れる。その段差は辺り一帯を仕切り、ジムに来るものを拒む様に、造られた姿に見える少年は、「遠くからは大きく書かれたGYMの文字で誘い、それに誘われて来た者を段差の仕切りによって拒む、なんてクレイジーなんだ…」と、若干苛立ちながら繋がる通路を探し、歩き出す。段差に沿って、しばらく歩いた少年に、遂にジムへと繋がっていそうな通路が現れる。やっとジムに辿り着けるという思いに、少年の歩みは自然と速くなる。「ういーっ!ひっく……待ちやがれ! わしの話を聞け!」傍らから聞こえてきた呼び掛けに歩みが止まる。ジムへの高ぶる気持ちで気付かなかったが、声のした方へと振り向くと通路に横たわる老人が寝そべりながら話し掛けてきていた。よく見ると顔は真っ赤に染まり、しゃっくりをしながら気持ち良さそうな表情を浮かべている。そう、紛れもなく飲んだくれである。昼間っから酔っ払う老人に無駄足を喰らった少年は、フルシカトで立ち去ろうとする。「……こら! 行くな!と言っとろーが!」と、言い放った老人は、酔っ払いとは思えないほど、勢い良く足技を掛けてくる!その傍らで放たれた足技に対し、後方へ勢い良く飛び上がった少年は、間一髪で足技をかわし、地面に着地する。向き直した視界の先で、横たわりながらも、鋭く見つめてくる老人の小さな瞳に、少年は、「なんてクレイジーなんだ…」と、改めて思う。「あらら じいちゃん! こんな所で寝ちゃって しょーがないわね!酔いが醒めるまで待つしかないわ」と、傍らに立ち、老人の介護をするお姉さんは呆れ顔で諦め、言い放つ。「しょーがないじゃなくて、何とかしてくれよ!そこ通れないんですけど…しかも、クレイジー」と、言うことも出来ず、少年は、苦笑いを浮かべる心の奥底に沸々と滾る苛立ちを隠しながらも、ひとまず、その場を後にする。行く当てを無くした少年に、あの言葉が蘇ってくる『便利な道具屋ですから トキワシティで ぜひ寄ってくださいね!…』「いやいや、あんな胡散臭い人物に惑わされてはダメだ」と、思い歩く少年の視界に看板を掲げる店が映る。看板には『フレンドリィショップ』と書かれている。間違いない、あの人物が言っていた店だ。「騙されるな!」そう自分に言い聞かせる気持ちとは逆に、怖いもの見たさに自然と伸びた足先が扉のセンサーに当たり、ドアが自動で開く。ウィーン…ドアが開く音と同時に威勢の良い掛け声が店内に響き渡る「いらっしゃいませっ!」その掛け声は店内を駆け巡り、遂に少年の耳へと届く。その大声に、ハッ!とした少年は我に返り、無意識の内に行われ、作り出されたこの状況を理解する。入るつもりのなかった店内へと目を向けると、レジからこちらをジーッと見つめる店長らしき人物と目が合ってしまう。その人物は入口に立つ少年に、ニカッと笑い、まだ見つめている。もう後戻りは出来ない。覚悟を決めた少年は、額からにじみ出る汗を手の甲で拭うと、得意の苦笑いを浮かべ、店内へとゆっくりと足を踏み入れる。「お!君はマサラタウンから来たんだね?」そう問いかけてくる店長に疑問を感じ、立ち止まる。何故この男は初めてこの店を訪れた自分にマサラタウンから来たのかを確認してくるのか、それとも店へと入ってきた人物一人一人にその事を確認しているのか?その時、少年の脳裏にあの出来事が浮かび上がってきた。いや違う、奴だ!奴に違いない!少年は、トキワシティへ来る途中に出会った胡散臭い人物の事をまた思い出していた。奴が、マサラタウンから来る自分の特徴を携帯電話で店長に連絡していたに違いない、でなければ、ああいう問いを掛けられるはずがない。あの男は、行き場をなくした自分がここを訪れる事まで計算していたのか!『トキワシティで ぜひ寄ってくださいね!』その言葉が少年の脳裏をかすめる。「クソっ!ハメられた!」その思いに、自然と歪んだ表情で向き直した視界の先で、ニカッと笑い、手招きをする店長の姿が目に映り、怪しんでいる事がバレぬ様に一瞬の内に作り笑いを浮かべた少年は、恐れながらもレジの方へと歩みを進める。「オーキド博士を知ってるね?」レジで向き合う店長は、また問いを掛けてくる。「だとしたらなんだ?キサマに答える義理は無い」そんな言葉が少年の頭に浮かび、吐き出されようとした瀬戸際で呑み込まれ、気付くと少年は、首を縦に振っていた。そう、この行動で少年が、オーキド博士に対して何らかの形で知人である事を裏付ける証拠となってしまう。その行動の後で、ハッ!と、その事に気付く少年へ「これ 頼まれてるんだけど 渡してくれるかい!」とフレンドリィにニカッと笑い、後ろの棚から届け物を取り出す店長。「断る。届け物なら運送会社にでも頼むんだな」と、きっぱりと断る事は出来ず、少年は手渡された届け物を受け取ってしまう。面倒ごとを押し付けてきたにも関わらず、送料すらも支払わない事を、当たり前の様な平然とした顔に「送料無料か!」と、心の中でツッコミを入れた少年は、苛立ちを隠し、フレンドリィショップを後にする。まんまとハメられた気持ちの少年は、自然と作り出された、しかめっ面のままマサラタウンへと到着する。研究所の手動ドアを開き、中へと入った少年は、相変わらずイソイソと働く研究員達の姿を目にする。その奥にある自分の研究室から、こちらに気付き、「久しぶり」というような様子で笑顔を見せるオーキド博士に、リュックから出した届け物を携えた少年は、面倒ごとを押し付けられ、少し不機嫌そうな面持ちで、足早に近付いて行く。「おお!サトシ」先に話し掛けたのは、久しぶりの再会を喜ぶ博士だった。「どーだい? わしの やったポケモンは……」博士の問い掛けに、少年はヒトカゲをモンスターボールから出して見せる。「ほう……だいぶ なついた みたいだな?」屈み、ヒトカゲの様子を見ながら頭を撫でる博士は、傍らに立つ少年を見上げ、ニカッと笑う。「お前 ポケモントレーナーの才能があるな!」曇りなき眼で褒め微笑みかけてくる博士に、不機嫌だった少年は、急に恥ずかしくなり、必死に不機嫌顔を作り、平然を装おうするが、褒められた事の嬉しさで表情が少しニヤケ、作り出された違和感のある表情に、首を傾げる博士を目にし、ハッ!とし、我に返った少年は、自分が不機嫌になった原因の、手に握られていた届け物を思い出す。「……え わしに渡す物が?」また首を傾げる博士は、少年から手渡された届け物を開ける。「おお!これは わしが注文してた特性のモンスターボールじゃ どうも ありがとよ!」この言葉を聞き少年は、注文していた事を忘れ、運悪く店を訪れたマサラタウン出身の自分に、貧乏くじが回ってきた事を理解する。「爺さん!」研究所のドアが開かれると同時に聞こえてきた、後ろからの聞き慣れた声に振り向くと、やはりアイツが立っていた。近付いてきたライバルは、少年と目が合うと、相変わらずキザな態度で「なんだ。お前もいたのか」と言わんばかりの呆れた表情を浮かべ、目線を逸らすと博士と向き合う。「すっかり忘れてた!俺に何か用事だって?」その言葉を聞いた少年は、「物忘れは爺さん譲りか」と、心の中で呟く。「おお そうじゃ!お前たちに頼みがあるんじゃ」物忘れが日常となった博士の指差した先の、机の上に何かがある。「机の上にあるのは わしが作ったポケモン図鑑!見つけたポケモンのデータが自動的に書き込まれて ページが増えていくという 大変ハイテクな図鑑なのじゃ!」と自分の発明の偉大さを自慢げに語る。「サトシ シゲル これをお前たちに預ける!」その言葉を聞いた少年は、思わず目を見開く。タダで貸してもらえるハイテクな図鑑、博士の粋な計らいに、苛立っていた少年の心は喜びへと変わり、気付けば自然とニヤケていた。博士から手渡されたポケモン図鑑に少年は、満面の笑みを浮かべる。「この世界の全てのポケモンを記録した完璧な図鑑を作ること! それが わしの夢だった! しかし わしも もう爺! そこまでムリは出来ん!そこでお前たちには わしの代わりに夢を果たしてほしいのじゃ!」自分の夢を熱く語る博士には目もくれず、ハイテク図鑑をいじり出した二人に気付いた博士は、少し呆れた後、コホンと一回咳ばらいをし、二人を注目させる。「さぁ 二人とも さっそく出発してくれい! これはポケモンの歴史に残る偉大な仕事じゃー!」自分の胸の内を伝えきった達成感に酔いしれる博士の一声で壮大な冒険が幕を開ける。「よーし!爺さん!全部俺に任せなー!」と調子のいい孫が、そんなことを言い始める。「やれやれ始まった」と心の中で思った少年が隣に向き直すと、キザにニヤ付き、見下す様に横目で笑うライバルと視線が交わる。「サトシ! 残念だがお前の出番は 全くねーぜ!」その根拠のない証言に「やれやれ」と心の中で平然を装う少年だったが、表情には悔しさが滲み出てしまう。「そうだ!家の姉ちゃんからタウンマップ借りて行こう! サトシには貸さない様に姉ちゃんに言っておくから 俺ん家へ来ても無駄だからな!」と嫌味を言い残すと、キザにピースを投げ、去って行った。相変わらずの憎たらしさに、俄然負けん気が強まる。少年は博士にお礼を言うと、駆け出し、研究所を後にする。博士に思いを託された少年達の、それぞれの旅が始まる。
【初代ポケモン・赤】中二病ポケモンマスターへの道 ブログ小説②
マサラタウンから北に伸びる通路。草の生い茂る通路に、少年は改めて足を踏み入れる。念の為振り返ってみるが、マサラタウンから視線を感じることはなく、胸を撫で下ろし、歩き出す。ガサッ!目の前に生い茂る、少年の腰の高さぐらいまで伸びる草むらの先から聞こえた物音は、勢いよく少年に近ずいて来る!次の瞬間、草むらから飛び出してきた小さな影は、日の光に照らされ、実体を現す!「うわっ!」思わず声を上げてしまった少年の傍らで着地した小動物は、こちらに向き直す。振り向く少年の見下ろした先で威嚇する小動物と目が合う。それは二本の前歯が印象的な各地で見られる代表的なポケモン、コラッタだった。「デカっ!」神出鬼没なポケモンだが、実物を見るのは初めての少年は、無意識の内に、その言葉を発していた。だが、驚いている場合ではない。今にも飛び掛かってくる勢いの小動物、このままでは噛み付かれてしまいそうだ。「ポケモンにはポケモンだ!」気を取り直した少年は、モンスターボールに手を伸ばす。「ゆけっ!ヒトカゲ!」決めゼリフと共にポケモンが勢いよく飛び出してきた!目の前に現れたヒトカゲに、小動物の威嚇の標的が変わる。前歯をむき出しにしたコラッタは、勢い良く駆け出してくる。危険を顧みず身体ごと突っ込んでくる小動物に、少年の掛け声と共にかわそうと動き出した赤い身体の傍らを通り過ぎた小動物は、そのままの勢いで目の前に生い茂る草むらへと身を潜める。振り向くヒトカゲの周りで、草むらが、あちらこちらで音を立てる。それはまるで、大勢の小動物に囲まれてしまった様な感覚だ。相手の正確な位置が掴めない少年は焦る気持ちに表情を曇らせる。草むらを自由に駆け回るコラッタにとって、ここは庭の様な物、足を踏み入れる侵入者は、まさに袋のネズミ!完全な相手のペースに、焦る気持ちを落ち着かせながら少年は、音のする方向に耳を傾ける。徐々に迫ってくる背後からの物音に、「後ろだ!」少年の掛け声に、素早く反応した振り向くヒトカゲの視界の先で、草むらから狙いを付け、勢い良く小動物が飛び出して来た!次の瞬間、全力で飛び込んできたコラッタをギリギリまで引き付けたヒトカゲの片腕から放たれた引っ搔く攻撃は、カウンターを喰らわす様に飛び込んできた身体に命中し、勢い良く引っ掻き飛ばした!コラッタの身体は、弾き飛ばされた先で草のかたまりに当たり、落ちた地面で目を回し仰向けに倒れる。さっきまでの劣勢とは嘘の様な、あっけなさにポカンとした顔でヒトカゲと顔を見合わせる。その後再び、コラッタに向き直した視界に、起き上がった小動物の後ろ姿があった。「あっ!」という間に視界から消えたコラッタは、草むらに吸い込まれる様に逃げ去って行った。しばらく草むらを搔き分け進んだ先で、開けた場所へと辿り着いた少年は、妙な人物を見つけてしまう。立ち並ぶ木々に顔を付け、通路側に立つ少年に背を向けて立っている人物はこちらを向くことはない。無視して立ち去ってもいいが、どうにも気になってしまった少年は、しびれを切らし、話しかけてしまう。すると、「待っていました!」と言わんばかりに勢い良く振り返った怪しい男は、ニカッと笑い、「私フレンドリィショップの定員です」と自分が怪しい者ではないと、疑われてもいないのに身の潔白を証明する様に聞かれてもいないことをフレンドリィに喋り出した姿を見て、少年の身体は自然と後ずさっていた。「便利な道具屋ですから トキワシティで ぜひ寄ってくださいね! そうだ!見本を差し上げましょう……どうぞ!」とギラギラと輝かせた視線の先で、力強く握らされた『きずぐすり』に、「いや、知らない人から物をもらったらいけないって親に言われてるんで」と言う事も出来ず、得意の苦笑いを浮かべ、軽くお辞儀をすると、それをリュックにしまう。しばらく歩き、振り返ると、また木々に顔を付け、獲物を待ち伏せる様に佇む男の姿に、少年は身震いし、足早に立ち去る。歩き進む先に見えてきた大きな木の下で休憩をとる事にした少年は、リュックを降ろすと大きな木に背もたれる。バサバサッ!大きな音を立て、大木の上から、いきなり降りてくる翼をもつ生き物は、少年のすぐそばに降りてきた。それに驚き、声を上げた少年に振り向いた小動物は、各地で目撃される代表的な鳥ポケモン、ポッポだった。このポケモンは大人しく、戦いを好まない事で知られていて、少年の前に降りてきた、このポッポも気にした様子もなく平然と佇んでいた。「今がチャンス!」そう思った少年は、モンスターボールに手を伸ばす。その時だった、少年の張り切った表情で気付いたのか、目の前に佇んでいたポッポは勢い良く空中へ飛び上がると、少年の頭上を通り過ぎ、飛び去って行く。「くそぉ~!」そう叫び、じだんだする少年の頭部に、ポトッ!…何かが落ちてきた。帽子を脱ぎ、確認する少年の表情は一瞬にして凍りつく。そこには、お気に入りの帽子の、ど真ん中にへばり付いたポッポの糞があった。「く、糞ぉ…」無意識の内に呟いていた、おやじギャグに気付き、更にテンションが下がる。休憩を終え、北へと進む少年の視界に木々に囲まれたトキワシティが見えてきた。しばらく進み、トキワシティへと辿り着いた少年は、半分観光気分で、取りあえず目の前にある建物へと足を運ぶ。ウィーン… 扉の目の前に立った少年を、受け入れる様に自動で開かれた扉を見て驚く。当然、田舎のマサラタウンに自動ドアはなく初めて見る少年の頭の中に「科学の力って すげー!」と言っていた住民の姿が浮かんで消えた。中へ入ると広々としたフロアにテーブルと椅子が並べられ、休憩を取る人の他、カウンターでポケモンの入ったモンスターボールを預ける人などが見受けられる。どうやらここが、ポケモンセンターの様だ。詳しくは知らないが、預けたポケモンが元気になって返ってくるポケモン専門の病院みたいなものらしい。カウンターに向かい、歩き出した少年の耳に、近くでくつろぐ人達の話し声が聞こえてきた。「ポケモンセンターは、この先どこの町に行ってもある!何匹預けてもタダだし こまめに使うといいよ!」何匹預けてもタダ!?しかも、ほぼ全国展開だと!?どこの石油王、いや、カジノ王が、何の目的で無償の施設を建てたのか?しかもそれを、ほぼ全国展開するとは…自分には想像もつかない事が行われている事に思わず立ち尽くしてしまう。「次の方、どうぞ」カウンターから話し掛けてくる女医さんの声を聞いた少年は、先程まで膨らませていた考えを全て忘れ、頭に残ったタダという言葉で、カウンターまで全力疾走し、ニヤついた顔でヒトカゲの入ったモンスターボールを勢い良く差し出す。その姿に一瞬怯んだ女医さんが改めて話し掛けてきた。「ようこそ!ポケモンセンターへ ここではポケモンの体力を回復致します モンスターボールを お預けになりますか?」その問いかけに対し、YESしか頭にない少年は、満面の笑みを浮かべ、大きく頷く。変な奴が来たという様な思いを隠そうとする様な表情にも見えた女医さんは「それでは預からせて頂きます!」とモンスターボールを預かると、機械の上に並べ、スイッチを入れる。すると、ほんの数秒で動き出した機械は停止し、ヒトカゲの入ったモンスターボールを手渡される。「お待ちどうさまでした!お預かりしたポケモンは みんな元気になりましたよ!またのご利用を お待ちしてます!」早過ぎる返納に驚き、頭を下げる女医さんにお辞儀をした少年は、施設の外へ出ると、ヒトカゲを出してみる。出てきたヒトカゲのすっかり元気になった姿を見て少年は、目の前の神施設のありがたさに手を合わせ、崇める。
【初代ポケモン・赤】中二病ポケモンマスターへの道 ブログ小説①
二階の自分の部屋。ファミコンで遊ぶ少年は、今年で10歳になる。「…………よし!そろそろ出かけよう!」お気に入りの帽子を被り、リュックを背負うと一階へ通じる階段を降りていく。一階の広間には大きなテーブル、椅子に座る母親は、ブラウン管テレビに映る午後のワイドショーを今日も眺めている。「…そうね 男の子はいつか旅に出るものなのよ。うん…… テレビの話よ!」そんな話を聞く息子は、いつもの様に苦笑いを浮かべる。だが、ここの家庭には父親の姿が無い。どうやら複雑な家庭の様だ。「そういえば、隣りのオーキド博士が、あなたを呼んでたわよ」その言葉を聞き、少年は博士との約束を思い出し、玄関のドアを開ける。どういった要件かは聞かされていないが、研究所に来るように言われていた。外に出た少年に、ゲームばっかしてんなよと言わんばかりに太陽の光が降り注ぐ。眩しい光に目を覆う視界は徐々に晴れてゆき、いつもの風景が現れる。そよ風の吹き抜けるマサラタウンには、自宅、幼馴染の家、オーキド博士の研究所の3つの建物が建っている。この3軒と関係のない外にいる住民は、どこで寝泊まりしているのか?…そんな事は子供が考える事ではない!少年は自宅から徒歩数秒で着く研究所の手動ドアを開く。中に入ると開けた部屋で数名の研究員がイソイソと働く姿が目に入ってきた。そこから見える奥の部屋、博士の研究室に見慣れた後ろ姿が佇んでいた。近ずく少年に振り返る見慣れた姿の少年は「なんだー サトシか!オーキドの爺さんなら居ねーよ」と、捨て台詞を放ち、呆れた様に、ほくそ笑む姿に少し苛立ち、研究所を後にする。…しばらく探し回ったがオーキド博士の姿はない。「いい年こいて、かくれんぼか?」そんな考えが頭をよぎる。だが、この小さな街、マサラタウンには身を隠せる所などない。マサラタウンから北に伸びる一本の通路。もしかしたら、北の街に買い出しにでも出かけたのか…。少年は、通路の草むらへと足を踏み入れようとする。その時だった!「おーい!待てー!待つんじゃあ!」いきなり背後から聞こえてきた大きな掛け声に、一瞬ビクつき振り返る視界に、慌てて駆け寄ってくる白衣の爺さんは、息を切らす。「危ないところだった!草むらでは野生のポケモンが飛び出す!こちらもポケモンを持っていれば闘えるのだが……そうじゃ!……ちょっとわしに付いてきなさい!」半ば強引に付いて行かされる形になった少年は、自分が草むらに入ろうとする瞬間まで背後から観察されていたのではないかと疑問を抱き、白衣の後ろ姿を前に、少しゾッとする。研究所の手動ドアを開き広間に入って来る二人に気付き、振り返る幼馴染は「爺さん!待ちくたびれたぞー!」と腕を組み、ポーズを決めながら話しかけてくる。「シゲルか?………おお そうか わしが呼んだのじゃった!」この言葉を聞き少年は、自分を呼んでいたことも忘れていたんだろうと気付かされる。「ちょっと待っておれ!ほれ サトシ!そこに3匹ポケモンが居るじゃろう!」指を差された先のテーブルに3つ並んだボールが目に入ってきた。「ほっほ!モンスターボールの中にポケモンが入れてあるんじゃ。昔は、わしもバリバリのポケモントレーナーとして鳴らしたもの!老いぼれた今はポケモンも3匹しか残っとらんが お前に一匹やろう!……さぁ 選べ!」それを聞いた幼馴染は「あッ!ずるい!爺さん!俺にも くれよお!」と不機嫌そうに言い放ち、じだんだする。武勇伝を聞かされ、苦笑いを浮かべていた少年の顔は驚きへと変わり、幼馴染を見る横目は先に選べる優越感で、無意識の内にニヤケ顔へと変わる。「まー!慌てるな シゲル!お前も好きな物を取れ!」そう言い、孫をなだめる博士には目もくれず、少年は、このハイリスクハイリターンに瞳を輝かせ、真剣にボールを見つめている。「キミにきめた!」何故か気が付けば、自然とそのセリフを吐いていた。少年の選んだボールから出てきたのは、尻尾の先に炎を灯す全身を真っ赤に染めたトカゲポケモンだ。「このポケモンは ほんとに元気がいいぞ!」微笑み、語り掛けてくる博士に、満面の笑みを浮かべる。「じゃ 俺は これ!」猛ダッシュし、ボールを掴んだ幼馴染は、それを高々と掲げ「俺の選んだポケモンの方が強そうだぜ」と、偉そうに見下ろしてくる。根拠のない強がりと分かっていながらも、表情は自然と歪んでしまう。少年は博士にお礼を言うと、高鳴る胸に研究所を後にしようと駆け出してゆく!「待てよ!サトシ!」後ろから聞こえてきた呼び声に少年は足止めを喰らう。「せっかく爺さんにポケモン貰ったんだぜ!……ちょっと俺の相手してみろ!」自信満々に近ずいて来た幼馴染は、返事も聞かずにポケモンを繰り出してきた!無視して立ち去ろうとも思ったが、コイツの天狗の鼻をへし折ろうとする闘争心が勝り、気が付けばモンスターボールに手が伸びていた。「ゆけっ!ヒトカゲ!」決めゼリフと共に勢いよくポケモンが飛び出してきた!周りの研究員と共に博士がざわつく。幼馴染の繰り出してきたポケモンは、全身を青く染め、硬い甲羅で身を守る亀の子ポケモンだ。ならば先手必勝!少年の掛け声に、距離を一気に詰めた鋭い爪が、青い甲羅に襲い掛かる!「かわせ!」その掛け声に、体勢を翻した青い甲羅は、近ずいて来た爪を寸前でかわし、かわされた爪は勢いよく書物を引き裂く!破けた書物をかき集める研究員の傍らで、檄を飛ばす幼馴染の掛け声に、青い甲羅は勢いよく体当たりを放つ!「かわせ!」少年の掛け声に合わせるように緩やかに回避した真っ赤な身体の傍らを通り過ぎた青い甲羅は、書物がびっしりと詰まった本棚に、勢い良くぶつかり書物の山がバラバラと音を立て、崩れ落ちてゆく。青ざめてゆく研究員とは対照的に博士の顔は赤く染まってゆく。睨み合う両者に、周りの惨状は目に映らない。一瞬の静寂の後、先に仕掛けたのはヒトカゲだった!間合いの近い状態からの引っ搔く攻撃に、かわし事の出来なかった甲羅は引っ搔き飛ばされる!床に着地したゼニガメを畳みかける様に詰め寄ってくるヒトカゲ!その時、幼馴染の檄が飛ぶ!近寄ってくるヒトカゲに、背中を向け尻尾を振るゼニガメ。「しまった!罠だ!」少年が気付き声を上げるが、時すでに遅し!視界の先で振られる尻尾に目を回し、無防備になるヒトカゲの姿があった。「今だっ!!」その一声に、勢いよく走り出したゼニガメの力強い体当たりがヒトカゲの脇腹に命中する!勢いよく弾き飛ばされたヒトカゲの身体は研究所で一番大きな本棚に激しくぶつかり、その衝撃に、本棚は勢いよく倒れ、大量の書物をまき散らす!少年は慌ててヒトカゲに駆け寄り、目を回すヒトカゲを抱きかかえる。「やりー!やっぱ俺って天才?」高笑いするライバルに、悔しいがグウの音も出ない少年の表情は梅干しの様にしわくちゃになってしまう。「ばっかもーーーん!!」研究所内に響き渡った叫び声は、紛れもなくオーキド博士の物だった。その叫びを聞き、周りを見渡す二人は我に返る。倒れた本棚、床一面に広がる書物を片付ける研究員達。そして、激昂し、鬼の形相を真っ赤に染め上げたオーキド博士がこちらを見ている。「あちゃ~」っと言わんばかりの申し訳なさそうな表情を浮かべる二人は首根っこを摑まれ、研究所から放り出される。…「やっちまったな」と顔を見合わせる二人。「よーし!他のポケモンと闘わせて もっともっと強くするぜ!」とライバルは開き直り、立ちあがる。「サトシ!そんじゃ あばよ!」キザにピースを投げ、ニヤケ見下ろし去っていった。鼻で笑われた様な感覚に「アイツには負けられない」そう思い、立ち上がる。青空が広がり、心地良い風が吹く中、少年は歩き始める。