【初代ポケモン・赤】中二病ポケモンマスターへの道 ブログ小説⑤

トキワシティに引き返して来た少年は、タウンマップを見つめていた。この先進むにしても、やはりあの道を行くしかない…。その道というのは、トキワシティから北に伸びる道。ニビシティに繋がる通路の事だ。だが、そこに向かうには問題が一つあった。『ういーっ!ひっく……待ちやがれ! わしの話を聞け!』少年は、あのクレイジーな爺を思い出していた。あの爺がいる限り、その先へ進む事は叶わないだろう。「酔っ払いめっ!…」だが、他に行く当ての無い少年は、駄目元で、もう一度あの場所を訪れる。すると、驚くことに、あの爺がいなくなっているではないか!「今がチャンス!」だが、まだ安心は出来ない。あのイカれた爺の事だ。どこかに身を潜め、監視し、『……こら! 行くな!と言っとろーが!』あの決め台詞を吐き散らし、行き交う人々の通行を妨げているに違いない!だが、少年は、爺の欠点に気付く。それは、奴がその場に待機していない事だ!以前は、あの狭い通路に横たわり、異常な足技で、来るものを阻んでいた為、通る事が出来なかった。だが、今回は違う!覚悟を決めた少年は、勢いよく駆け出して行く!その全力の猛ダッシュに砂埃が上がり、遂に、あの場所を通過する!「やった!やったぞっ!遂に通過してやったぞっ!フハハッ!…残念だったな爺。もはや老いぼれたキサマの、その足では追い付けまいっ!」そう心の中で、勝ち誇った様に高笑いをする少年は、ギラギラと輝かせる瞳の下で、口元に不敵な笑みを浮かび上がらせた。「うーん……」突然、傍らから聞こえてきた奇妙な唸り声に気付き、少年は声のした方に振り向く。「うわっ!」目にした光景に驚きのあまり、少年は、うかつにも叫び声を上げてしまう。そこには、有ろう事か通行人を待ち伏せ続けていたはずのイカれた爺が立っているのだ。何故コイツがここにいる!?まさか、走り抜けて来る事を予測し、この付近で待機していたというのか!?「クソっ!ハメられた!」そう思わずにはいられない少年は、自分の浅はかな考えを悔やみ、勝ち誇った様な不敵な表情も、一瞬にして曇り、しわくちゃの梅干しの様な悔し顔へと変わる。逃げようにも、猛ダッシュの末、息を切らし、あまり身動きが取れない。「酔っ払ってた みたいじゃ!頭が痛い……」頭を抱えながら呟く老人の姿を、静かに見つめるしかない少年。「時に、お急ぎ……かな?」そんな問いを掛けられ、お急ぎだが、身動きの取れない少年。【はい】と言って通り過ぎようと、必死になって駆け出したとしても、このイカれた爺に回り込まれて捕まるのが関の山だ。ここは大人しく言う事を聞くのが無難だろう。額から滲み出る汗を手の甲で拭い、息を切らしながら、首を横に振る。その行動で【いいえ】を伝えると、老人はニヤリと笑い、その小さな眼でアレを見つける。「ほっほう!ポケモン図鑑 作っとるか」その発言を聞き、少年の目が見開く。「何故分かった!?図鑑を作ってる事は一言も言ってないぞ!」疑問に思った少年が振り返ると…「っ!しまった!」そう思った少年の視界に映っていたのは、リュックのサイドポケットから、はみ出すポケモン図鑑だった!面倒くさがりの少年は、新たなポケモンを見かけるたびにリュックから出し入れする図鑑のうっとうしさのあまり、自分でも気付かぬ内に、博士から預かったハイテク機械をサイドポケットに入れ、世間にさらしてしまっていた。「だが、何故この爺がポケモン図鑑の事を知っている!?」という疑問よりも「その小さな眼に関わらず、なんという視力だ!この爺…侮れん!」という気持ちが上回り、向き直した視界の傍らに立つ爺を警戒し、身構える!「しかも、この爺…何か底知れぬ洞察力を感じる!」少年は、自分が見透かされる様な感覚に囚われ、思わず息を吞み、得意の苦笑いを浮かべる余裕すら無い。「なら わしから アドバイスじゃ!ポケモンを捕まえて調べれば自動的にページが増えていくんじゃよ!」笑顔で自慢げに語り出す爺を見ながら「そんなことは知っている」などという爺を挑発する様な言葉を発せられる訳もなく、静かに頷いていた。「なんじゃー 捕まえ方を知らんのか!では……わしが お手本を見せてやるかな!」急に張り切り出した爺を見て、ふと我に返り、ハッ!と驚く。「しまった!」知っている事ばかり語り出す老人に気が付けば自然と相槌を打っていた少年は、知らず知らずの内に、恐らく「お前さん ポケモンの捕まえ方 知らんのではないか?」的な問い掛けにも頷いてしまっていたのだろう。爺に笑顔で腕を掴まれ、グイグイと林の中へと連れて行かれる少年は、重大な事に気付く。最初の問いの答え【いいえ】。それこそが運命の分かれ道だったという事に!だが、それに気付いたところで、もう手遅れだ。事件は現場で起きている!が、結構手前で老人の足が止まる。老人の視線の先を見ると、木を這う様に登って行く、トキワの森での目撃情報が多い〔けむしポケモン〕のビードルがいた。老人は、静かにモンスターボールを取り出すと、鋭く狙いを付けたビードルに、それを投げ放った!投げ放たれたボールは、レーザービームの様に一直線に、凄まじい速さで飛んで行くとビードルの後頭部に命中し、ビードルはボールに吸い込まれ、そのままボールと共に地面に落ちてくる。その僅か数秒間の内に、ほぼ音も無く行われた神業に、息つく暇もなく少年は、その驚きに目を見開き、只々立ち尽くす事しか出来なかった。地面を転がったボールの真ん中にあるボタンは赤く点滅するが、ボールに入ったビードルは外に出ようと暴れる様子はない。やがてボタンの点滅は終わり、モンスターボールを拾い上げる爺。恐らくビードルは、自分が捕まった事すらも気付いていないのだろう。驚きが表情に現れ、固まってしまった少年は、こう思った「将に密林のスナイパー!」。林から道へ、共に戻ってきた老人は「初めの内は ポケモンを弱らせてから取るのがコツじゃ!」と、自己満が終わり、満面の笑みで語ると、少年を解放し、そこらをぶらつき始める。その腰が曲がり、ぶらつく姿を見て「なんて身勝手な爺なんだ…」と、クレイジーに思う反面、ビードルを一瞬で捕らえた神業に、感服した少年は「達人の領域に達した者は、こういうイカれた奴が多いのかも知れない。昔は数多くのポケモンを捕らえてきたエキスパートだったのだろう」と思う少年は、その敬意を表し、クレイジー爺、名を改め、自己満爺。というレッテルを貼ると、その場を後にする。ニビシティへと向かうため、街を出ようとする少年に、分かれ道が現れる。それは以前、自己満爺に行く手を阻まれ、辿り着く事の出来なかったトキワジムへと伸びる通路だった。その事をすっかり忘れていた少年は、刷り込みが行われているポケモンスクール的な場所での事を思い出し、ジムへと歩き出す。「見てろよ!ジムリーダー!お前を叩き潰してやる!」と、会った事もない相手に、闘志をメラメラと燃やす少年は、遂にトキワジムの前へと辿り着く。目の前に聳え立つ巨大な建物は遠くで見た時とは比べ物にならないならない程、巨大で、力強く聳え立っている。まるで城壁の様にも見えるその外装には、近くで見ると、ますます巨大に見えるGYMの文字。その建物の脇に立つ看板にも目を向ける。そこには『トキワ ポケモンジム』と書かれていた。「って、どんだけ目立ちたがり屋だよっ!」と、シンプルなツッコミを入れる事なく入口へと進んだ少年は、そこに取り付けられた大きな手動ドアを掴み開く。ガシャッ!だが、ドアは開かれる前に音を立て、止まる。よく見るとドアには大きな南京錠で鍵が掛けてある。すると近くを通り掛かった老人が、おもむろに話し掛けてきた「いつ来ても このポケモンジムは閉まっとる 一体どんヤツがリーダーをしとるんじゃろか?」首を傾げながら語る老人の言葉を聞きいた少年は、この事の真のクレイジーさに気付かされる。「遠くからは大きく書かれたGYMの文字で誘い、それに誘われて来た者を段差の仕切りによって拒み、通路に放たれた刺客、クレイジー爺が進行を阻み、必死に抗い、藁をも掴む思いで、ようやく辿り着いた入口で、有無を言わさず門前払い!」少年は、燃え上がる怒りを必死に抑え、呟く。「なんてクレイジーなんだ…」静かに怒りを燃やす少年だったが、顔色は赤く染まり、その表情は鬼の形相へと変わってしまっていた。行き場のない怒りに、地面を踏みつけながらその場を後にした激おこぷんぷん丸は、ニビシティへと続く道、木々が所狭しと生い茂るトキワの森へと足を踏み入れるて行く。

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