ここはトキワシティの年中無休、24時間営業、しかも無料の神施設。言わずと知れたポケモンセンターだ。広々としたフロアには、今日も大勢の人が押し寄せ、大繁盛だ。その中で一人、カウンターに立ち、立ちはだかるトレーナー達のポケモンを次々と元気にしていく女医さんの『ジョーイ』さん。目の前で繰り出される、その目まぐるしい程の手さばきに「おおっ!」と声を出し、驚く人も少なくはない。無料で体力、異常までも全快してくれる、この神的存在に気付き、姑息に何度も利用する。その様な奴も少なくはない。ウィーン…入口の自動ドアが開かれ、白々しい苦笑いを浮かべ、ペコペコと小さく頭を下げながら中に入って来た少年。彼もその中の一人だ。「また、コイツか…」凄まじい手さばきを繰り出しながらも、入口から入り、カウンターへと列を成すトレーナーの群れの最後尾に付く少年を視界に捕らえた女医さんは、笑顔を絶やす事なく、営業スマイルで群れのポケモン達を全快してゆく。「次の方、どうぞ」遂にカウンターまで辿り着いた少年は、その言葉を聞くと笑顔でヒトカゲの入ったモンスターボールを手渡す。手渡されたボールに「やはりな…」営業スマイルで受け答えする女医さんの予想は的中した。ヒトカゲは毒に侵されているのだ。それもそのはずだ。ここを数分置きに嫌がらせの様に訪れている少年の神施設利用目的は、全て、毒の状態異常を回復してもらう為だったからだ。トキワの森へと足を踏み入れた少年は、薄暗い茂みの中、地面を微かな音しか立てずに、這い近づいてくるビードル達に気付く事が出来ずに、度々【どくばり】をもらうヒトカゲ。少年が気付いた時には、時すでに遅し。【どくばり】の針先に付く毒によって、森に入る度、毒に侵され、放って置いても治癒しない毒の状態異常。徐々に身体を蝕んでいく毒、このまま進んだところで、どの道、瀕死のヒトカゲを抱えたまま、結局、戻る結果になる事は目に見えている。そして、またここへ引き返して着ていたのだ。それを何度も繰り返し、今、目の前で満面の笑みを浮かべる少年。「学習能力の無い奴め…」そう思いながらも、笑顔で受け答えする女医さんには全てお見通しだ。『ねぇ この店の売れ筋は どくけし なんだって!』少年は、ヒトカゲが毒に侵される度、あの胡散臭いフレンドリィな店で買い物をしていた客の言葉を思い出していた。あの客が店で雇われたサクラだったのかは、さて置き、やはりあの森を抜けるには『どくけし』が必要不可欠だ。だが、後先考えずに有り金をほぼ全額モンスターボールを買う為に使ってしまった少年に『どくけし』を買える余裕などあるはずがない。機械が停止し、その上に並べられたボールがまた女医さんから少年へ手渡される。「お待ちどうさまでした!お預かりしたポケモンは みんな元気になりましたよ!またのご利用を お待ちしてます!」そんな定型文を言いながら営業スマイルで少年を見る女医さんに、白々しい微笑を浮かべ、ペコリと小さくお辞儀をした少年は、足早に入口の自動ドアから立ち去って行った。何度も見た、その申し訳なさそうにも見える少年の後ろ姿に「コイツ…また来るな……」と、呆れながらも、表情を崩さない女医さんは、列を成す来客の群れに微笑み、呼びかける。「次の方、どうぞ」今日も女医さんの営業スマイルは終わらない。日の光も遮られる程に木々や草花の生い茂るトキワの森。薄暗いこの森に再び足を踏み入れる少年は、忍び寄ってくるビードル達の【どくばり】にうんざりしていた。この森へ入るトレーナーのほとんどは『どくけし』を持参する。有り金をほぼ使い果たした少年は、気合でこの森を抜ける方法しかないのだ。だが、何度も訪れて行く内に、徐々に慣れてきた少年の目は、薄暗い森の地形がある程度見える様になっていて、ビードル達が這いずり回る深い茂みを避け、回り道でもあまり草木の生い茂っていない道を選び、歩き進んでいた。ガサッ!深い茂みの奥で何かが動いているのを確認した少年は息を凝らし、その茂みを見詰める。「芋虫野郎だと厄介だ。隙を見て立ち去ろう。」そう思う少年は、茂みから後ずさる。が、その茂みから少年の予想とは違う二つの耳が顔を出す!「何だ!?あの耳は!」『どくけし』を持っていなかった為、何度もこの森を訪れる事となっていた少年だったが、あんな形のしなやかに動く尖った耳を持つポケモンとは遭遇していなかった。【どくばり】を貰う恐怖心よりも好奇心が勝り、目を見開いた少年は、深い茂みを次々と搔き分け、遂に二つの耳へと辿り着く。「!!」驚き、目が更に大きく見開いた少年の目の前に現れたポケモンは、なんと、テレビでも大人気!CMでも引っ張りだこ!その愛くるしいルックスから、町のデパートでは、ぬいぐるみやキーホルダーなどを中心に数々のグッズが造られ、他の町ではその偽物グッズまで出回る始末!今、少年の目の前にいるポケモンこそ、そのモデルとなった有名なねずみポケモンのピカチュウだ!「ピカチュウって、トキワの森にいたのか!!」テレビでしか見た事のない大人気キャラクターを目の前にして、まるで芸能人に会ったかのような感覚に捕らわれた少年は、キラキラと輝かせた瞳で見詰め、自然と握手をお願いするかの様に差し出された手を見たねずみポケモンが後ずさる。その行動を見て、ハッ!と我に返った少年。「しまった!ここにいるのは野生のピカチュウだ!何を握手会と勘違いしてるんだ!馬鹿か!」気を取り直した少年は、腰に掛けたモンスターボールに手を伸ばす。今度は違う感情でキラキラと輝き出した少年の瞳にピカチュウが映る「絶対ゲットしてやる!!」勢い良く突き出されたボールからポケモンが勢いよく飛び出してきた!「ゆけっ!コラッタ!」ボールから出て来た、ねずみポケモンと野生のねずみポケモンが睨み合い、威嚇する。コラッタは、少年がヒトカゲ強化の為、トキワシティ辺りの草むらでバトルを繰り広げていた時に、サクッとゲットしたポケモンだ。薄暗い茂みの中、先に動いたのは、野生のねずみポケモンだった!力を入れる様に構えた身体、頬っぺたの両側にある小さな電気袋そこから発電した電気の帯がコラッタを目掛けて飛んでくる!突然の出来事に戸惑い、少年の指示が遅れる。「かわせっ!」少年の掛け声と同時にコラッタの身体が電撃に包まれ、薄暗い森に一瞬、閃光が走る!「コラッタ!」声を上げる少年の傍らで【でんきショック】をまともに喰らい、バチバチと静電気で毛を逆立たせながら倒れるコラッタ。何とか起き上がろうとするコラッタに、もう一度【でんきショック】を叩きこもうと構えを取り電気袋を光らせる、ねずみポケモン。「まずい!このままだと二撃目もまともに喰らってしまう!」愛くるしいルックスとは裏腹に恐ろしく攻撃的なポケモンだということに、今更気付かされた少年の額から汗がにじみ出る。焦りながらも、冷静を保とうとする少年の出した答えは「茂みに身を隠せ!」その指示を聞き、痺れる後ろ脚で力一杯地面を蹴り上げ茂みに飛び込んだコラッタを追う様に野生のねずみポケモンの電撃が放たれる!バリバリと音を立て、狙いを付けた茂みに落ちた電撃が森にまた一瞬の閃光を生んだ!「コラッタはどうなったんだ!?」少年の不安な気持ちが表情となって浮かび上がる。それをよそに、きびすを返し、茂みの中へ逃げ去ろうとする野生のねずみポケモン。ガサッ!その物音と同時に逃げ去ろうとする野生のねずみポケモンの目の前の茂みから、勢い良く姿を現したのは、少年のねずみポケモンだった!「コラッタ!」声を上げる少年の目の前で、コラッタの勢いづいた【たいあたり】は、不意を突かれた野生のねずみポケモンの額にぶち当たる!その凄まじい衝撃に後方へ弾き飛ばされた、ねずみポケモンは落ちた先の茂みを激しく転がる!コラッタは間一髪で、あの電撃から逃れ、野生のねずみポケモンの背後へと回り込んでいたのだ。あれは間違いなく急所に当たった事だろう。「今だっ!」必死に起き上がろうする野生のねずみポケモン目掛けて少年は狙いを付けたモンスターボールを力一杯振り投げる!あの自己満爺の様に!少年の手元から投げられたボールは綺麗なカーブを描き、ねずみポケモンの額に当たる!ボールへと吸い込まれたねずみポケモン、ボールの真ん中にあるボタンの点滅が始まる。…静まり返った森の茂み、息を吞む少年の目の前で激しく転がり点滅するボール。中のねずみポケモンは必死に抵抗しているのだろう。右へ左へ転がるボール…。「ピカチュウ!仲間になってくれ!」少年がそう願った時、転がり回っていたボールのボタンの点滅が止まる。「…や、やった……」ピカチュウの入ったモンスターボールを拾い上げると、驚きと笑顔でコラッタと顔を見合わせる少年。「ピカチュウ ゲットだぜッ!」決めポーズと共に嬉しさのあまり、気付けばこの言葉を口にしていた。…大声で。恐ろしく攻撃的でかなりの苦戦を強いられたが、これからは味方と思うと心強い。昨日の敵は今日の友…そんな言葉をどこかの誰かが言っていた様な気がするが…「まいっか」そんな事を考えるよりも森を抜ける事の方が重要だ。「コラッタありがとう!ゆっくり休んでくれ。」頑張ってくれたコラッタと改めて顔を見合わせた少年はコラッタの戻ったモンスターボールを腰に掛けると深い茂みを避け、あまり草木の生い茂っていない道へと戻り、また歩き出す。薄暗く、木々の生い茂る森は、少年の視界の先で深々と広がる。
【初代ポケモン・赤】中二病ポケモンマスターへの道 ブログ小説⑤
トキワシティに引き返して来た少年は、タウンマップを見つめていた。この先進むにしても、やはりあの道を行くしかない…。その道というのは、トキワシティから北に伸びる道。ニビシティに繋がる通路の事だ。だが、そこに向かうには問題が一つあった。『ういーっ!ひっく……待ちやがれ! わしの話を聞け!』少年は、あのクレイジーな爺を思い出していた。あの爺がいる限り、その先へ進む事は叶わないだろう。「酔っ払いめっ!…」だが、他に行く当ての無い少年は、駄目元で、もう一度あの場所を訪れる。すると、驚くことに、あの爺がいなくなっているではないか!「今がチャンス!」だが、まだ安心は出来ない。あのイカれた爺の事だ。どこかに身を潜め、監視し、『……こら! 行くな!と言っとろーが!』あの決め台詞を吐き散らし、行き交う人々の通行を妨げているに違いない!だが、少年は、爺の欠点に気付く。それは、奴がその場に待機していない事だ!以前は、あの狭い通路に横たわり、異常な足技で、来るものを阻んでいた為、通る事が出来なかった。だが、今回は違う!覚悟を決めた少年は、勢いよく駆け出して行く!その全力の猛ダッシュに砂埃が上がり、遂に、あの場所を通過する!「やった!やったぞっ!遂に通過してやったぞっ!フハハッ!…残念だったな爺。もはや老いぼれたキサマの、その足では追い付けまいっ!」そう心の中で、勝ち誇った様に高笑いをする少年は、ギラギラと輝かせる瞳の下で、口元に不敵な笑みを浮かび上がらせた。「うーん……」突然、傍らから聞こえてきた奇妙な唸り声に気付き、少年は声のした方に振り向く。「うわっ!」目にした光景に驚きのあまり、少年は、うかつにも叫び声を上げてしまう。そこには、有ろう事か通行人を待ち伏せ続けていたはずのイカれた爺が立っているのだ。何故コイツがここにいる!?まさか、走り抜けて来る事を予測し、この付近で待機していたというのか!?「クソっ!ハメられた!」そう思わずにはいられない少年は、自分の浅はかな考えを悔やみ、勝ち誇った様な不敵な表情も、一瞬にして曇り、しわくちゃの梅干しの様な悔し顔へと変わる。逃げようにも、猛ダッシュの末、息を切らし、あまり身動きが取れない。「酔っ払ってた みたいじゃ!頭が痛い……」頭を抱えながら呟く老人の姿を、静かに見つめるしかない少年。「時に、お急ぎ……かな?」そんな問いを掛けられ、お急ぎだが、身動きの取れない少年。【はい】と言って通り過ぎようと、必死になって駆け出したとしても、このイカれた爺に回り込まれて捕まるのが関の山だ。ここは大人しく言う事を聞くのが無難だろう。額から滲み出る汗を手の甲で拭い、息を切らしながら、首を横に振る。その行動で【いいえ】を伝えると、老人はニヤリと笑い、その小さな眼でアレを見つける。「ほっほう!ポケモン図鑑 作っとるか」その発言を聞き、少年の目が見開く。「何故分かった!?図鑑を作ってる事は一言も言ってないぞ!」疑問に思った少年が振り返ると…「っ!しまった!」そう思った少年の視界に映っていたのは、リュックのサイドポケットから、はみ出すポケモン図鑑だった!面倒くさがりの少年は、新たなポケモンを見かけるたびにリュックから出し入れする図鑑のうっとうしさのあまり、自分でも気付かぬ内に、博士から預かったハイテク機械をサイドポケットに入れ、世間にさらしてしまっていた。「だが、何故この爺がポケモン図鑑の事を知っている!?」という疑問よりも「その小さな眼に関わらず、なんという視力だ!この爺…侮れん!」という気持ちが上回り、向き直した視界の傍らに立つ爺を警戒し、身構える!「しかも、この爺…何か底知れぬ洞察力を感じる!」少年は、自分が見透かされる様な感覚に囚われ、思わず息を吞み、得意の苦笑いを浮かべる余裕すら無い。「なら わしから アドバイスじゃ!ポケモンを捕まえて調べれば自動的にページが増えていくんじゃよ!」笑顔で自慢げに語り出す爺を見ながら「そんなことは知っている」などという爺を挑発する様な言葉を発せられる訳もなく、静かに頷いていた。「なんじゃー 捕まえ方を知らんのか!では……わしが お手本を見せてやるかな!」急に張り切り出した爺を見て、ふと我に返り、ハッ!と驚く。「しまった!」知っている事ばかり語り出す老人に気が付けば自然と相槌を打っていた少年は、知らず知らずの内に、恐らく「お前さん ポケモンの捕まえ方 知らんのではないか?」的な問い掛けにも頷いてしまっていたのだろう。爺に笑顔で腕を掴まれ、グイグイと林の中へと連れて行かれる少年は、重大な事に気付く。最初の問いの答え【いいえ】。それこそが運命の分かれ道だったという事に!だが、それに気付いたところで、もう手遅れだ。事件は現場で起きている!が、結構手前で老人の足が止まる。老人の視線の先を見ると、木を這う様に登って行く、トキワの森での目撃情報が多い〔けむしポケモン〕のビードルがいた。老人は、静かにモンスターボールを取り出すと、鋭く狙いを付けたビードルに、それを投げ放った!投げ放たれたボールは、レーザービームの様に一直線に、凄まじい速さで飛んで行くとビードルの後頭部に命中し、ビードルはボールに吸い込まれ、そのままボールと共に地面に落ちてくる。その僅か数秒間の内に、ほぼ音も無く行われた神業に、息つく暇もなく少年は、その驚きに目を見開き、只々立ち尽くす事しか出来なかった。地面を転がったボールの真ん中にあるボタンは赤く点滅するが、ボールに入ったビードルは外に出ようと暴れる様子はない。やがてボタンの点滅は終わり、モンスターボールを拾い上げる爺。恐らくビードルは、自分が捕まった事すらも気付いていないのだろう。驚きが表情に現れ、固まってしまった少年は、こう思った「将に密林のスナイパー!」。林から道へ、共に戻ってきた老人は「初めの内は ポケモンを弱らせてから取るのがコツじゃ!」と、自己満が終わり、満面の笑みで語ると、少年を解放し、そこらをぶらつき始める。その腰が曲がり、ぶらつく姿を見て「なんて身勝手な爺なんだ…」と、クレイジーに思う反面、ビードルを一瞬で捕らえた神業に、感服した少年は「達人の領域に達した者は、こういうイカれた奴が多いのかも知れない。昔は数多くのポケモンを捕らえてきたエキスパートだったのだろう」と思う少年は、その敬意を表し、クレイジー爺、名を改め、自己満爺。というレッテルを貼ると、その場を後にする。ニビシティへと向かうため、街を出ようとする少年に、分かれ道が現れる。それは以前、自己満爺に行く手を阻まれ、辿り着く事の出来なかったトキワジムへと伸びる通路だった。その事をすっかり忘れていた少年は、刷り込みが行われているポケモンスクール的な場所での事を思い出し、ジムへと歩き出す。「見てろよ!ジムリーダー!お前を叩き潰してやる!」と、会った事もない相手に、闘志をメラメラと燃やす少年は、遂にトキワジムの前へと辿り着く。目の前に聳え立つ巨大な建物は遠くで見た時とは比べ物にならないならない程、巨大で、力強く聳え立っている。まるで城壁の様にも見えるその外装には、近くで見ると、ますます巨大に見えるGYMの文字。その建物の脇に立つ看板にも目を向ける。そこには『トキワ ポケモンジム』と書かれていた。「って、どんだけ目立ちたがり屋だよっ!」と、シンプルなツッコミを入れる事なく入口へと進んだ少年は、そこに取り付けられた大きな手動ドアを掴み開く。ガシャッ!だが、ドアは開かれる前に音を立て、止まる。よく見るとドアには大きな南京錠で鍵が掛けてある。すると近くを通り掛かった老人が、おもむろに話し掛けてきた「いつ来ても このポケモンジムは閉まっとる 一体どんヤツがリーダーをしとるんじゃろか?」首を傾げながら語る老人の言葉を聞きいた少年は、この事の真のクレイジーさに気付かされる。「遠くからは大きく書かれたGYMの文字で誘い、それに誘われて来た者を段差の仕切りによって拒み、通路に放たれた刺客、クレイジー爺が進行を阻み、必死に抗い、藁をも掴む思いで、ようやく辿り着いた入口で、有無を言わさず門前払い!」少年は、燃え上がる怒りを必死に抑え、呟く。「なんてクレイジーなんだ…」静かに怒りを燃やす少年だったが、顔色は赤く染まり、その表情は鬼の形相へと変わってしまっていた。行き場のない怒りに、地面を踏みつけながらその場を後にした激おこぷんぷん丸は、ニビシティへと続く道、木々が所狭しと生い茂るトキワの森へと足を踏み入れるて行く。
【初代ポケモン・赤】中二病ポケモンマスターへの道 ブログ小説④
『サトシには貸さない様に姉ちゃんに言っておくから 俺ん家へ来ても無駄だからな!』研究所の外へ出た少年の脳裏に、先程の嫌味ったらしい言葉が甦ってきた。だが、地図があるのと無いのとでは大違いだ。この先、旅をするのにタウンマップは必要になってくる事だろう。アイツにはダメ押しされていたが、幼馴染の家を訪れた少年は、玄関のドアをノックする。「はーい」中から声が聞こえ、ドアが開かれる。中から出てきたのは幼馴染のお姉さんだった。少年も、この人に会うのは久しぶりだった。幼馴染の家庭は、シゲル、お姉さん、オーキド博士の三人で暮らしている。こちらも相当複雑な家庭の様だ。久しぶりに見る少年に、微笑んだお姉さんは、「オーキドの お爺ちゃん お仕事頼んだんだって?」と問を掛けてきた。その言葉を聞き、やはりアイツの手が回っていた事に気付いた少年は、「一足遅かったか…」と思うが、先に研究所から出て行ったシゲルからすれば当然の事だ。「大変ねー」他人事の様に話すお姉さんは、何かを取り出し、持ってくる。「これ あげるから使って!」手渡された物を見て驚く!それは、シゲルから貸さない様にとダメ押しされたであろうタウンマップだった。「貸さぬ様言われたはずのタウンマップを?しかもタダでくれるだと!?」手にした思いがけない物を見て驚き、向き直した少年の目に微笑むお姉さんが映る。「自分のいる場所や街の名前が知りたい時 タウンマップ 使うといいわよ」と少年に使い方を教え、優しく微笑んだお姉さん。あの嫌味ったらしい弟とは大違いのお姉さんの慈悲深さに感服致した少年は、感謝のお辞儀をすると、幼馴染の家を後にする。マサラタウンから北に位置するトキワシティへ、もう一度向かうため歩き出した少年は、ある事に気が付く。それは、旅をする事をまだ母親に伝えていないという事だった。それに気付いた少年は、ポケモンを貰ったあの日から帰っていない自宅のドアを開ける。中に入ると、椅子に座る母親は、ブラウン管テレビに映る午後のワイドショーを今日も眺めている。いつもと変わらない光景に少年は、呆気に捕らわれるが、内心ホッとしていた。「サトシ……! 少し休んで行ったら どうかしら……?」帰ってきた息子に気付いた母親は、あまり多くは語らず、そう問い掛けてきた。静かに頷いた少年は、二階の自分の部屋で横になる。少し休むと一階へ降りてきた息子の顔を見て、微笑む母親は、「あらあら! あなたもポケモンも元気いっぱいね! それじゃ 気を付けて! 行ってらっしゃい!」と快く送り出す。ポケモンを貰った事も、これから旅に出る事も伝えていないのに、その全てを理解した上で送り出す様な言葉。「何も言わずとも全てを理解する常識を超えた現象!…もしや!悟りを開き、神の領域に達したというのか!?」ブラウン管テレビから聞こえてくる午後のワイドショーのBGMを背中で感じながら、玄関のドアを開ける少年は、振り返らずに、自宅を後にする。トキワシティへ向かう途中、見覚えのある後ろ姿を目撃する。その胡散臭い後ろ姿は、マサラタウンを旅立ったあの日、少年の脳裏に焼き付いた物と全く同じ姿だった。その立ち並ぶ木々に顔を付け、通路側に立つ少年に背を向けて立っている人物、恐らくマサラから来る初心者トレーナーを待ち伏せているのだろうが、今の所マサラから旅立つトレーナーは自分とアイツ以外にいない。この先、需要は見込めないだろう。店長も見切りを付けて引き揚げさせた方が良い。そんな事を考えながらも、他人事に首を突っ込まない少年は、声を掛ける事無く街を目指す。トキワシティに戻ってきた少年は、少ない小遣いをほぼ全額ぶち込み、モンスターボールをまとめ買いすると、フレンドリィショップから出てくる。草むらでサクッとコラッタとポッポをゲットした少年は、まだ進んだ事の無い新天地。タウンマップで調べるとトキワシティから西へ伸びる通路、22番道路に来ていた。生い茂る草むらから飛び出してくるポケモンに育ち盛りのヒトカゲが、次々とワンパンを決めていく。この爽快感に酔いしれる少年は、ちゃっかり毒針ポケモンのニドランの♂♀ペアもゲットし、絶好調だった。「この辺りで我に敵う者はいない!」優越感に浸りながらニヤ付き顔が止まらない少年は、更なる高みを目指し、歩みを進める事にする。タウンマップを開くと、この先を進めばチャンピオンロードとかいうロードが書いてあった。「この先を進めばチャンピオンが自分を待っているのか!」そう思う少年は、ヒトカゲがチャンピオンのポケモン達をワンパンしていく姿を思い浮かべ、その更にニヤ付く顔は傍から見れば、もはや変人の域だ。その表情を維持したまま歩いた先、「あーッ!サトシ!」自分を呼びかける聞き慣れた声に歩みが止まる。ふと我に返り、戻された現実の視界に、いきなり目の前に現れるライバルに驚き、「うわっ!」と、叫び声が出てしまいそうな口を寸前で閉じ、声を呑み込む。「何やってんだコイツ?」と言わんばかりの馬鹿にした様な表情を浮かべるライバルに必死で平然な表情を作る。「ポケモンリーグに行くのか?」突然の的を射た問い掛けに、「どうしてそれを!?顔に出ていたのか!?」平然を装う事が出来ないほどの驚きと疑問は、遂にその表情に現れてしまう。その図星の表情を見たライバルは、鼻で笑うと、いつも通りのキザな笑いを浮かべ、「やめとけ! お前どうせバッジ持ってねーだろ?」と言い放つ。「バッジ?何を言っているんだコイツは」さっぱり分からない問い掛けに少年は、困惑する。「見張りの おっさんが通してくれねーよ!」その言葉を聞き、目の前にいるコイツは追い返されて来たと気付いた少年は、いつも馬鹿にされてる仕返しに、小馬鹿にする様に心の中で笑った。「……それよりさあ!お前のポケモン 少しは強くなったかよ?」開き直り、話題を変えたライバルは、相変わらずのキザな態度で、勢いよくポケモンを繰り出してきた!またコイツの我がままで仕掛けられたバトルだったが、鍛えられたヒトカゲを戦わせたくてウズウズしていた少年は、俄然やる気に満ち溢れ、腰に掛けていたモンスターボールを掴み取り、構える。「丁度いい、チャンピオンをぶっ倒す前の肩慣らしだ!!」そう心の中で思った少年は、自信に満ち溢れ、力強く見開かれた眼力の下で口元が不敵な笑みを浮かべる。「ゆけっ!ヒトカゲ!」決めゼリフと共に勢いよくポケモンが飛び出す!草むらで鍛えられたヒトカゲの前に、立ちはだかるライバルのポケモンは、あの戦い慣れた一般的な小鳥ポケモンのポッポだった。だが、野生で見るのとは違い、隙の少ない立ち振る舞いに対し相手の裏をかくには、新しく覚えたこの技しかなかった!「ひのこだ!」少年の掛け声と共に、狙いを付けたヒトカゲの口から勢いよく放たれた【ひのこ】は、さっきまでのキザなニヤ付き顔が驚きと焦りに変わるライバルのポッポに力強く飛んで行く!「かわせ!」一瞬遅れて掛けられた声に動き出そうとする間もなく【ひのこ】に呑み込まれたポッポは、身体に付く炎を振り払うが、それでも身体にかなりのダメージを受けてしまい、動きが鈍る。これは、チャンスだ!少年の掛け声で素早く駆けだしたヒトカゲは、一気に距離を詰め、鋭い爪を剥き出しにし、ポッポの身体に襲い掛かる!「今だ!」その掛け声を聞き、ヒトカゲをギリギリまで引き付けたポッポの鉤爪で巻き上げられた地面の砂は、勢いよくヒトカゲの瞳に命中する!目に入ってた砂で、狙いが定まらなくなったヒトカゲの【ひっかく】攻撃は、動きの鈍ったポッポにも簡単にかわされてしまう。「かぜおこし!」ライバルの掛け声で、ポッポの傍らで体勢を崩すヒトカゲに、近距離からの繰り返し羽ばたかれた風の渦が勢いよく襲い掛かる!「かわせ!」背後から聞こえる少年の叫び声に動き出そうとする身体は、勢いよく渦巻く風の流れに逆らえず、為す術なく呑み込まれ、弾き飛ばされる!「ヒトカゲ!」飛ばされた先の地面で転がり、起き上がるヒトカゲに少年が呼び掛ける。見たところ、あまりダメージは受けていないようだが、やはり目は開き辛い様だ。「かぜおこし!」ライバルの掛け声と共に、畳み掛ける様に勢いよく羽ばたかれた風の渦が急速に迫ってくる!普段のヒトカゲなら、かわす事も出来るはずだが、視界を狭まれたこの状況では回避する事は難しいだろう。「どうする!?」額に汗を滲ませる少年は【かぜおこし】が命中するまでの数秒間で考えを巡らせる。そうだ!と、とっさに思い付いた策に少年は賭け、口元が動く。「風が向かってくる方向に、真っ直ぐ全力で、ひのこだ!」その少年の掛け声に、視界を狭まれたヒトカゲは身体を通り過ぎてゆく風の流れに向き直すと身体を仰け反らせ、腹の底から勢いよく【ひのこ】を吐き出す!力強く吐き出された【ひのこ】は、直撃寸前まで近付いていた【かぜおこし】とぶつかると、それを風船を割る様に、いとも簡単にかき消し、風の流れは分散し、周りに散る。風の渦をかき消した、火球の様に勢いよく真っ直ぐに飛んで行く【ひのこ】の向かう先には、ポッポが地面の砂埃を舞い上げながら翼を羽ばたかせ、風を送っている。少年が思った通り、放たれた【かぜおこし】の直線上には、やはりライバルのポッポがいた。まさかの、風の渦を貫通して飛んでくる火球、思ってもいなかった事態にライバルの指示が遅れる「かわせ!」叫び声を上げるが、手遅れだ。勢いよく真っ直ぐに向かってきた火球の様な【ひのこ】がポッポの身体に直撃する!燃え盛る【ひのこ】に包まれ、弾き飛ばされたポッポは、飛ばされた先の地面で転がり、目を回し倒れる。少し悔しそうな表情に変わったライバルは、ポッポをモンスターボールに戻すと次のポケモンを繰り出してきた!そのポケモンは少年も知っている、あのポケモンだった。全身を青く染め、硬い甲羅で身を守る亀の子ポケモン。このポケモンを見るのは、博士から初めてポケモンを貰ったあの日以来だ。一瞬ニヤ付いた様に見えたライバルの口元が動く。「ゼニガメ!あわだ!」その掛け声に、構えたゼニガメの口からシャボン玉の様に無数に吐き出された【あわ】は、ヒトカゲの身体をゆっくりと包み込む。「何だ?この技は、これがゼニガメの新しい技なのか」と、どう見ても普通の泡にしか見えない少年は、「泡風呂みたいだ」と、呆れた様な表情でヒトカゲに向き直す。だが、そこには苦しそうに【あわ】に耐えるヒトカゲの姿があった。ほのおタイプのヒトカゲにとって、みずタイプの技【あわ】は弱点に当たる。その事を思い出した少年の表情は焦りを浮かべる。油断していた間に周りを【あわ】が埋め尽くしてしまっていたのだ。「すなかけで視界を奪い、あわで取り囲み継続的にダメージを与える作戦か!」と気付くが、もう遅い。威力は低そうだが、ヒトカゲにとっては苦しい状況だ。「どうする!?」焦る気持ちに額にかく汗が流れ落ちてくる。指示を出そうにも視界の狭められたヒトカゲを【あわ】の届かない所まで誘導するのは難しい。まずは、これをどうにかするしか…「!」ここで、ある考えが閃き、少年の口元が動く。「あわに顔を付けろ!」意味の分からない発言に、ライバルは馬鹿にした様に首を傾げる。「血迷ったか?」呆れるライバルの視界の先で、指示通りに苦手な【あわ】に顔を付けるヒトカゲ。それを確認した少年は更に指示する「目を開き、砂を洗い流せ!」その発言を聞き、ハッ!としたライバル。「させるな!たいあたりだ!」その傍らで立ち、【あわ】を吐き出し続けていたゼニガメは、口を閉じると駆け出し、地面に無数に吐き出された【あわ】に甲羅の腹側で滑り込む様に勢いよく飛び込むと、割れ出した【あわ】の地面に残る水気を利用し、一気に滑り抜けて行く!「この時を待っていた!」急速に近付い来る、真っ直ぐに地面を滑る甲羅の音、視界が狭まれた状態のヒトカゲでも攻撃を当てる事は容易い。「近付いて来る音に耳を傾けろ!」その言葉を聞き、囲まれた【あわ】の中で静かに力を溜める様に構えを取るヒトカゲは、鋭い爪を剥き出しにする。「駄目だ!引き返せ!」今から起ころうとしている状況に気付き、声を荒げたライバルだったが、勢い付いた加速する甲羅をゼニガメは止められない。「今だっ!ひっかく攻撃っ!」少年の掛け声と共に放たれた力強い【ひっかく】は、急速に近付いて来た青い甲羅にカウンターを喰らわす様に豪快な一撃を浴びせる!抜群のタイミングで引き裂かれた甲羅は、まるでホームランを打たれた様な凄まじい勢いで、後方に弾き飛ばされた先で、木にぶつかり、落ちた地面で回転する。「ゼニガメ!」呼び掛けるライバルの声に、甲羅から顔を出したゼニガメは、残り僅かな力を振り絞り、立ち上がろうとする。あの凄まじい攻撃に対し、とっさに甲羅に身を隠したゼニガメの判断は正しかった。生身に当たっていれば、即戦闘不能になっていただろう。少年は、ヒトカゲに向き直すと、そこには目に入った砂が取れたであろうヒトカゲの瞳と目が合う。静かに頷いた少年は、自信満々に言い放つ。「畳み掛けろっ!ひっかく攻撃だっ!」その掛け声を聞き、ゼニガメの滑って出来た【あわ】の無い直線の道をヒトカゲは駆け抜けてゆく。ゼニガメとの開戦時から、足にまとわり付いた【あわ】に速度を下げられるも、鍛えられたヒトカゲの取っても余りある素早さに、ゼニガメとの距離は見る見るうちに縮まってゆく。やっとの思いで立ち上がったゼニガメの視界に、鋭い爪が襲い掛かる!「あわだっ!」ライバルの掛け声に、口から吐き出された無数の【あわ】が鋭い爪に、先に吐き出された方から順番に勢いよく割られてゆく!次々と割られる【あわ】、遂にゼニガメの顔が姿を現す!「決めろっ!」後ろから聞こえる少年の掛け声に、力を込めたヒトカゲの【ひっかく】が頭部を捕らえる!その衝撃で地面を転がったゼニガメは目を回し、倒れる。「あーッ!」叫び声を上げ、ゼニガメに駆け寄ってきたライバルは無事を確認するとモンスターボールに戻す。「こいつ舐めたマネを!」思った事を直ぐ口に出すライバルは、言葉にすると同時に、不機嫌そうな顔で、こちらを見てくる。その後、近付き、拳が突き出される!少年は「憂さ晴らしに殴られるのか!?」と思い、身構える。が、その拳は少年に当たる前に止まり、そこで開かれ、握り拳の中からアレが出てきた。少年は、賞金として280円手に入れた!見掛けによらず意外と律儀なヤツだ。この世界では負けた方が勝った方に賞金を渡す。そういうルールになっている…らしい。「どうやらポケモンリーグには 強くて凄いトレーナーがウジャウジャいるらしいぜ」さっきまでの不機嫌な態度から一変し、開き直った様に、話題を変えて話し出すライバルに、少年は、一瞬驚かされる。嫌味なヤツだが、そういう後腐れの無い所は立派だ。「どうにか あそこを通り抜ける 方法を考えなきゃな!お前も いつまでも ここらに いないで とっとと先に進めよ!」と勝負に負けた事も忘れたのかと思うほどに、キザなニヤ付き顔を満面に浮かべたライバルは、去り際にまたキザなピースを投げ、その後ろ姿は見えなくなった。勝負には勝ったが、少年は、少し苛つく。ライバルには念押しされたが、ポケモンリーグ側に歩みを進め出した少年に、看板が見えてくる。『ここはポケモンリーグ正面ゲート』立ち並ぶ柵の間にある看板から見上げると、そこには巨大な建物が聳え立っていた。近くまで来ると、その巨大さが、更に際立ち、城壁の様に聳え立っている。ウィーン…の割に意外と小さめの取り付けられた自動ドアが音を立て、開く。中に入ると、開けたフロアに一直線に絨毯が敷かれ、その先に大きな扉、その傍らに立つ一人の男、絨毯の四隅にはポケモンを象った、大きな銅像が飾られている。堂々と絨毯を歩いてきた少年が大きな扉の前まで来ると、傍らに立つ男が、遂に話し掛けてきた。「ここから先は本当に強いポケモントレーナーだけ通れます」警備員の様な格好の胡散臭そうな男は、そう語り掛けてくる。恐らく警備員だろう。「あなたは まだグレーバッジを持ってませんね!」その吐き出された言葉と同時に効果音が鳴り響く!「ぶっぶーーッ!」突然の出来事に、ビクッ!と動いた、驚く少年の目が見開く!「何だ!?今の効果音は!!」そう思った少年は、周囲を確認するが効果音が鳴りそうな物は見当たらない。「って事は、傍らに立つ、このおっさんが腹話術の原理で効果音に似た声を発したって事か!!」そう結論に至り、改めて警備員に向き直す。「…だとすれば相当クレイジーな奴だ!」考えを巡らせていた少年の額から冷や汗が流れ落ちる。「決まりですから通す訳には いきません!」真面目そうに言い放たれた一言に、あの言葉を思い出す。『見張りの おっさんが通してくれねーよ!』ライバルが言っていた言葉を思い返し、少年は、気付かされる。「見張りの、おっさんとはコイツの事か!」だが、分かったところで、どうという事は無い。「あっ!UFO!とか言って、注意が逸れるた隙に扉を開き中に入る。だが、腹話術で効果音を出してくる様なクレイジーな奴に、そんな子供だましが通用するか?答えは限りなくNOだ!そもそも、あの扉には鍵が掛けてあるんじゃないのか?…」考えを巡らせていた少年は、ふと我に返る「アホ臭っ!」馬鹿馬鹿しい考えを巡らせていた自分に、恥ずかしさが押し寄せてきた少年は、帽子を深々と被り、警備員に背を向け、歩き出す。「チャンピオン!命拾いしたな!」とかいう恥ずかしい捨て台詞を吐く事もなく引き返した先の自動ドアが開き、外へ出た少年の見上げた視界に、どこまでも続く青空が広がっていた。