【初代ポケモン・赤】中二病ポケモンマスターへの道 ブログ小説⑦

深々と生い茂る木々、薄暗い視界の先に広がる森の出口を目指し進む少年は、近くに見えてきた看板に気が付いた。地面に刺さる木製の杭、ちょうど目線の高さに長方形の板を打ち付けた、いかにも手作りの看板には手書きで「毒を喰らったら【どくけし】! フレンドリィショップで!」と書かれていた。恐らくあの店長と胡散臭い定員が、経費を極限まで抑え、店を宣伝する為に考えた物が形となり実現した物が、この看板なのだろう。だが、見たところ苔が生え、木製の看板は朽ちかけている。恐らく設置してから何年も経っているのだろう。朽ち果てるのも時間の問題だ。「経費をケチったのが裏目に出たな」と奴らの顔を思い浮かべ、ニヤケながらも、後先考えずに、ほぼ全額【モンスターボール】を買うために小遣いを使い、【どくけし】を買う金がなくなってしまい、芋虫達の【どくばり】に苦しめられている現状を思い出し、少年のニヤケ顔は、すぐに歪み顔へと変わり、また歩き始める。深い茂みを避け、あまり草木の生い茂っていない道を進む少年は、少し開けた場所へと辿り着く。その場所は、あまり木々が生い茂っておらず、見上げると空から太陽の光が降り注いでいた。分かりやすく言うと森に出来た10円ハゲのような感覚だ。心地良い気分で辺りを見渡すと向こうから、こちらに向かって歩いてくる人物がいる。麦わら帽子にタンクトップ、短パン、サンダル、左手には虫取り網、右手には虫かごを持ち、不敵な笑みを浮かべながら、その歩みは止まらない。面倒くさい予感しかしない。「よーしッ!君はポケモン持ってるな?」近くで見ると更に際立つ『森に虫取りに来た』という思いを全身で他人に伝えようとする少年の口元は常にニヤケ、自分の捕まえた虫達を今にも自慢してきそうな勢いだ。だが、これだけ生い茂った森にタンクトップ、短パン、サンダルで来るのは自殺行為だ。毒虫に刺されると一発でアウトだ。「おいッ!聞いてるのか!?」そんな事を考えていた為、虫取りの少年から新たな問いかけが耳に届いた。向き合うとその表情は不敵な笑みから、若干の苛立ち顔に変わっていた。確か「君はポケモン持っているな?」とか聞いてきていたな、「その問いに答える義理は無い。今すぐ立ち去れ」などという失礼な事を言う事は出来ず、首を横に振り【いいえ】を伝えるが、噓を付いた焦りで汗が噴き出してきた。その姿を見て怪しんだ虫取りの少年が声を上げ、指を差す「あーーッ!」その声に「何だ?急に」と指を差された所に目を向ける「ッ!」指が指し示す先にあったのは少年の腰に掛けられたモンスターボールだ。「しまった!」噓を付いたまではいいが、ポケモンの入ったモンスターボールをいつも腰に掛けて持ち歩いている事まで、少年は気が回らなかった。正面に立つ虫取りの少年からすれば見える位置にあるモンスターボールをぶら下げながら、堂々と噓を付いた変な奴ということになる。再びニヤついた正面の口からセリフがこぼれ出る「勝負しようぜ!」そう言い放った虫取りの少年は虫カゴに入ったモンスターボールをいそいそと取り出し構える。そもそもその虫カゴ、使い方を間違っているのではないか?という疑問より「バレてしまってはしょうがない…キサマにはここで消えてもらうっ!」とかいうアニメの悪役的なセリフを思い浮かべている内に少年の足元に何かが忍び寄って来ていた。よく見るとそれは、身体の鮮やかな緑色が特徴的な芋虫ポケモン、この地域では数の少ないキャタピーだ。「いつの間に!?」正面のニヤケ顔に視線を戻すと、まだニヤケている。どうやら少年が余計な事を考えている内に虫取りの少年はキャタピーを繰り出してきたようだ。そして「これがここで捕まえた自慢のキャタピーだ!どうだ!凄いだろ!」と、その不敵な笑みから伝わってくるようだ。その表情に対し、無表情で答える。「ゆけっ!ヒトカゲ!」少年の掴み、構えたモンスターボールから勢い良くポケモンが飛び出してきた!経験を積んだヒトカゲは、この森で更に成長していた。その姿を見たニヤケ顔は、驚きと焦りに表情が一気に曇る。「た、たいあたりだっ!!」焦る気持ちがこちらにも手に取るように分かる指示を聞いたキャタピーがヒトカゲに向かい真っ直ぐに突っ込んでくる!「ひのこ!」その指示を聞き、動き出したヒトカゲは、先に動き出したキャタピーの【たいあたり】が当たるよりも早く【ひのこ】を吐き出す!突っ込んでくるキャタピーは、勢い良く【ひのこ】にぶつかり、炎に包まれながら、その衝撃で地面を転がる。「キャタピーっ!」目を回し倒れるキャタピーをモンスターボールに戻し、立ち上がった虫取りの少年は「負けたぁ!キャタピーなんかじゃダメか」と、負け惜しみを言うニヤケ顔は、負けた悔しさと入り乱れ、いびつな表情を作り出していた。ヒトカゲの【ひのこ】で呆気なく終わった勝負に少年は少し気の毒に感じ、声を掛けようとするが「しッ……!虫が逃げるから またな!」と、さっきまでの出来事がなかったかのように真剣な眼差しで、次の獲物を狙いながら遠回しに、話しを遮り、あっちへ行けと言ってくる横顔に、もうこちらの姿は映らない。あまりの素っ気なさに少し苛立つ少年は「わざと音を立て、その虫を逃がしてやろうか?」とも考えるが、それは流石に幼稚過ぎる嫌がらせと気付き、諦める。サンダルを力強く踏みながら、ゆっくりと音を立てないように進んで行く、中腰の姿を背に、少年は森の奥へと進んで行く。また薄暗い森の中を進む少年は、生い茂った木々が並木道のように生える場所へと差し掛かる。上を見上げると木漏れ日が差し込め、重なり合う木々は大きなトンネルを作り上げている。自然の作り出したトンネルを進む少年に「おーいッ!」と誰かの呼び声が聞こえてきた。振り向くと薄暗い中、木漏れ日を浴びながら手を上げ、足早に近付いてくる人物がいる。その距離は徐々に縮まっていき、遂にその姿を現す。それは、麦わら帽子にタンクトップ、短パン、サンダル、左手には虫取り網、右手には虫かごを持ち、不敵な笑みを浮かべている。まさに、さっき見たソレだ。どうやらこの付近には、こんな格好の奴らが多いようだ。自分ならこんな無防備な格好で虫取りには行かない。目の前のソレ、全身から滲み出ている虫取りオーラと不敵な笑みから感じ取れる事は、ただ一つ。面倒くさいという事だ。「ポケモントレーナーなら勝負は断れないぜ!」そんなセリフを吐いているが、そもそもこちらがポケモントレーナーであるなど一言も言っていない。逆に言えば、ポケモントレーナーでなければ勝負は断れるという事か。「何っ!?ポケモントレーナーじゃないっ!?」首を縦に振り、しぐさで【はい】を示す噓つき少年は、虫取りの少年の立つ位置から腰に掛けたモンスターボールが見えない様に若干斜めに立ち、腕で覆う様にボールを隠す。その違和感のある表情と不自然な立ち方に、疑いの眼差しを向ける虫取りの少年は、何かを覆い隠す様に腰に当てられた腕に気付き、回り見ようと動き出す。その動きに合わせ、ボールが常に見えない位置になるように回り動く少年。「お前っ!いい加減にしろっ!」少年はボールを覆い隠していた腕を掴まれる。「あーーっ!」体勢を崩した少年の腰にぶら下がるモンスターボールを見た虫取りの少年は声を上げる。嘘を付かれた若干の苛立ちから不敵な笑みへと戻った表情の少年は虫カゴから出したモンスターボールを構える。ポケモントレーナーとバレた以上、勝負は断れない。この世界はそういうルール…らしい。口元が一瞬更にニヤケ、モンスターボールからあのポケモンが飛び出してきた!それは、この森に入ってから散々苦しめられてきた頭と尻尾の先に毒針を持つ毛虫ポケモンのビードルだ。それを見た少年は腰に掛けたモンスターボールを掴み取り、決めゼリフと共に、あのポケモンを繰り出す!「ゆけっ!ヒトカゲ!」繰り出された両者のポケモンが睨み合う。ビードルの傍らに立つ少年の表情は、不敵な笑みから今度は焦りへと変わっていた。表情の変化の忙しい奴だ。だが、そうなってしまう理由も分かる。なぜなら【むし】タイプのビードルにとって【ほのお】タイプのヒトカゲは弱点だからだ。【ほのお】タイプの技に当たってしまうと大ダメージを受けてしまう。そんな事を考えている事が、その表情から手に取る様に分かってしまう。そんな表情を見ている少年の表情は、自然と不敵な笑みを浮かべてしまう。「茂みに身を隠せ!」先に動いたのは虫取りの少年の掛け声を聞きいたビードルだった。ビードルは自分の身長、少年達の腰の高さまで伸びる茂みに身を隠す。だが、その茂みは虫取りの少年の後方に少し生えているだけ、攻撃してくるとするならその茂みから飛び出すしか方法は無い。少年の静かな目線の合図を見て、ヒトカゲが小さく頷き、ビードルの隠れた小さな茂みに狙いを定める。静寂の後、また不敵な笑みに戻る口元が遂に動き出す!「今だ!どくばり!」茂みを見詰める少年とヒトカゲの背後からソレは飛び出してきた!「何っ!?背後からだとっ!?」その物音に気付き、予想していた方向とは真逆の方向から飛び出してくるビードルの姿を横目で確認した少年はヒトカゲに指示を出す!「かわせっ!」だが、その掛け声を発するよりも飛び出してきたビードルの【どくばり】の方が速く、ヒトカゲの背後の襲い掛かる!正面でニヤつく口元を前にヒトカゲは少年の指示よりも早く、身を翻す!その傍らをすれすれで飛び抜けていくビードルは、そのまま地面に生える草むらに吸い込まれる様に身を隠す。ヒトカゲは前方にある茂みを警戒しながら背後からの物音に気付き、身を翻す事で間一髪【どくばり】を回避する事が出来たようだ。目の前の茂み、目先にばら撒かれたエサにばかり気を取られていた自分が恥ずかしい。「今の攻撃、よくかわしたな!次はそうはいかないぞ!」そんな言葉を投げかける虫取りの少年の顔は、真剣な表情へと変わっていた。次は本気で仕掛けてくる!少年の額から汗が滲み出る。また始まった静寂の中で少年は考えを巡らせる。最初に茂みに身を隠れさせたのはそこに注意を引き付ける為の罠だった。ビードルは這って移動する為周りを覆いつくす膝ぐらいまで伸びた草木なら少年とヒトカゲの視界に入る事なく移動できる。つまり、ビードルにとって、この近辺全体が身を隠せる天然の隠れ場というわけだ。更に地面を這う音は生い茂る森の葉音でかき消され、攻撃を仕掛けてくる位置が掴めない。恐らくさっきの様な連携は這って移動し、背後に回り込んだビードルが草むらから顔を出し、それを見た虫取りの少年が指示を出したという事なのだろう。「…どうする!?」こうしている間にも、焦る少年のヒトカゲに魔の手は忍び寄って来ている。「!」少年はここである事に気付く。少年の目線の合図を見て、ヒトカゲは静かにしゃがみ、体勢を整える。その行動を見て、あざ笑う口元が喋り出す「ハハハ!それで隠れたつもりか?それともお手上げって事なのかな?アーハッハッハッ!」高笑う口元がニヤ付き、指示を出す。「今だっ!どくばりっ!」草むらから勢い良く飛び出したビードルが視界の外からヒトカゲに向かって襲い掛かってくる。この時を待っていた!静かに佇む少年が声を荒げる!「今だっ!飛び上がれっ!」その指示を聞いたヒトカゲはしゃがんだ体勢から一気に地面を蹴り、その反動をバネにし、身体を大きく跳ね上がる!それを見て口を大きく開き驚く虫取りの少年、そして勢い良く飛んだビードルが元居たヒトカゲの位置へと到達しようとする姿をヒトカゲは空中から視界に捕らえる。「ひのこだっ!」ヒトカゲの視界と重なり合う様な絶妙なタイミングでの地上からの指示に大きくのけ反った身体の口先から火球が顔を出す!【ひのこ】は間もなく真下に到達しようと飛ぶビードルの位置を予測し空中から放たれる!「か、かわせっ!」その指示を聞いたビードルだが、勢いを付け、飛んだビードルに、その方向を変える事はできない。吐き出された【ひのこ】がビードルの身体に直撃する!真下でぶつかった【ひのこ】の風圧を利用し、綺麗に着地したヒトカゲの傍らで、転がり目を回し、倒れるビードル。「ビードルっ!」慌てて駆け寄ってきた虫取りの少年は無事を確認しボールに戻す。立ち上がり睨みを利かす虫取りの少年はカゴの中から新たなモンスターボールを取り出し構え、そのまま繰り出してきた!中から現れたのは全身を硬い殻で覆った、さなぎポケモンのコクーンだった。再びニヤ付く口元が動き出す。「かたくなるだ!」虫取りの少年からの掛け声でコクーンの身にまとう殻は、更に硬くなっていく。だが、【かたくなる】で上がるのは防御だけだ。特殊技の【ひのこ】には全く関係がない。「どうやら、お勉強不足だったようだな!ポケモンスクール的な場所から出直してきな!」そんな勝ち誇った気になった少年の口元がニヤ付き、指示を出す。「ひのこ!」その掛け声を聞いたヒトカゲが身体をのけ反らせ、口先から【ひのこ】を吐き出す!放たれた【ひのこ】は、コクーンへと真っ直ぐに飛んで行く。「かわせっ!」叫ぶ虫取りの少年だが、元々あまり身動きの取れないコクーンからすると回避する事は難しい。激しい音を立て、コクーンの硬い殻にぶち当たった効果抜群の【ひのこ】は体力を一気に奪い、その一撃によりコクーンは目を回し地面に倒れる。その姿を見て、駆け寄ってきた虫取りの少年はコクーンをボールに戻すと、睨みを利かせながらカゴに中をかき回す。が、その中に戦えるポケモンはもういない「あれ?もうポケモンがないや」そんなセリフを言い、頭を掻きながら近付いてきた虫取りの少年から賞金70円を貰う。その時だった!「……おや!?ヒトカゲの様子が……!」傍らに立つヒトカゲの身体を光が包み込んでいく!今まで見た事のない現象に驚き、ただ立ち尽くす事しかできない少年の目の前でみるみるうちにヒトカゲは形を変えていき、ヒトカゲを包む光も徐々になくなっていく。そして現れた新しい姿へと成長したヒトカゲは鋭い爪と牙を持ち、尻尾の炎を力強く燃やしながらこちらを見ている。少年は慌ててポケモン図鑑を開き、ヒトカゲに向かい、かざす。そこにはヒトカゲの進化系、火炎ポケモンのリザードと記されていた。トキワシティ近辺の草むら、この森に入ってからも経験を積んだヒトカゲは、遂に進化の時を迎えたのだ。そのたくましい姿を同時に見ていた虫取りの少年は、驚きの表情で「悔しいな!強いのを捕まえて来よう!」と言い放つと脇目も振らず、虫取りへと戻っていく。そんな後ろ姿を見て、ここでのさばって居ても成長できないぞ?などと優越感に浸り、上から目線の思考に酔いしれる、他の思考が停止した少年はニヤケ顔のまま木々の生い茂る並木道トンネルを進む。その向こうで出口の光が差し込め、長く迷路のように入り組んだ森の終点を告げる。

【初代ポケモン・赤】中二病ポケモンマスターへの道 ブログ小説⑥

ここはトキワシティの年中無休、24時間営業、しかも無料の神施設。言わずと知れたポケモンセンターだ。広々としたフロアには、今日も大勢の人が押し寄せ、大繁盛だ。その中で一人、カウンターに立ち、立ちはだかるトレーナー達のポケモンを次々と元気にしていく女医さんの『ジョーイ』さん。目の前で繰り出される、その目まぐるしい程の手さばきに「おおっ!」と声を出し、驚く人も少なくはない。無料で体力、異常までも全快してくれる、この神的存在に気付き、姑息に何度も利用する。その様な奴も少なくはない。ウィーン…入口の自動ドアが開かれ、白々しい苦笑いを浮かべ、ペコペコと小さく頭を下げながら中に入って来た少年。彼もその中の一人だ。「また、コイツか…」凄まじい手さばきを繰り出しながらも、入口から入り、カウンターへと列を成すトレーナーの群れの最後尾に付く少年を視界に捕らえた女医さんは、笑顔を絶やす事なく、営業スマイルで群れのポケモン達を全快してゆく。「次の方、どうぞ」遂にカウンターまで辿り着いた少年は、その言葉を聞くと笑顔でヒトカゲの入ったモンスターボールを手渡す。手渡されたボールに「やはりな…」営業スマイルで受け答えする女医さんの予想は的中した。ヒトカゲは毒に侵されているのだ。それもそのはずだ。ここを数分置きに嫌がらせの様に訪れている少年の神施設利用目的は、全て、毒の状態異常を回復してもらう為だったからだ。トキワの森へと足を踏み入れた少年は、薄暗い茂みの中、地面を微かな音しか立てずに、這い近づいてくるビードル達に気付く事が出来ずに、度々【どくばり】をもらうヒトカゲ。少年が気付いた時には、時すでに遅し。【どくばり】の針先に付く毒によって、森に入る度、毒に侵され、放って置いても治癒しない毒の状態異常。徐々に身体を蝕んでいく毒、このまま進んだところで、どの道、瀕死のヒトカゲを抱えたまま、結局、戻る結果になる事は目に見えている。そして、またここへ引き返して着ていたのだ。それを何度も繰り返し、今、目の前で満面の笑みを浮かべる少年。「学習能力の無い奴め…」そう思いながらも、笑顔で受け答えする女医さんには全てお見通しだ。『ねぇ この店の売れ筋は どくけし なんだって!』少年は、ヒトカゲが毒に侵される度、あの胡散臭いフレンドリィな店で買い物をしていた客の言葉を思い出していた。あの客が店で雇われたサクラだったのかは、さて置き、やはりあの森を抜けるには『どくけし』が必要不可欠だ。だが、後先考えずに有り金をほぼ全額モンスターボールを買う為に使ってしまった少年に『どくけし』を買える余裕などあるはずがない。機械が停止し、その上に並べられたボールがまた女医さんから少年へ手渡される。「お待ちどうさまでした!お預かりしたポケモンは みんな元気になりましたよ!またのご利用を お待ちしてます!」そんな定型文を言いながら営業スマイルで少年を見る女医さんに、白々しい微笑を浮かべ、ペコリと小さくお辞儀をした少年は、足早に入口の自動ドアから立ち去って行った。何度も見た、その申し訳なさそうにも見える少年の後ろ姿に「コイツ…また来るな……」と、呆れながらも、表情を崩さない女医さんは、列を成す来客の群れに微笑み、呼びかける。「次の方、どうぞ」今日も女医さんの営業スマイルは終わらない。日の光も遮られる程に木々や草花の生い茂るトキワの森。薄暗いこの森に再び足を踏み入れる少年は、忍び寄ってくるビードル達の【どくばり】にうんざりしていた。この森へ入るトレーナーのほとんどは『どくけし』を持参する。有り金をほぼ使い果たした少年は、気合でこの森を抜ける方法しかないのだ。だが、何度も訪れて行く内に、徐々に慣れてきた少年の目は、薄暗い森の地形がある程度見える様になっていて、ビードル達が這いずり回る深い茂みを避け、回り道でもあまり草木の生い茂っていない道を選び、歩き進んでいた。ガサッ!深い茂みの奥で何かが動いているのを確認した少年は息を凝らし、その茂みを見詰める。「芋虫野郎だと厄介だ。隙を見て立ち去ろう。」そう思う少年は、茂みから後ずさる。が、その茂みから少年の予想とは違う二つの耳が顔を出す!「何だ!?あの耳は!」『どくけし』を持っていなかった為、何度もこの森を訪れる事となっていた少年だったが、あんな形のしなやかに動く尖った耳を持つポケモンとは遭遇していなかった。【どくばり】を貰う恐怖心よりも好奇心が勝り、目を見開いた少年は、深い茂みを次々と搔き分け、遂に二つの耳へと辿り着く。「!!」驚き、目が更に大きく見開いた少年の目の前に現れたポケモンは、なんと、テレビでも大人気!CMでも引っ張りだこ!その愛くるしいルックスから、町のデパートでは、ぬいぐるみやキーホルダーなどを中心に数々のグッズが造られ、他の町ではその偽物グッズまで出回る始末!今、少年の目の前にいるポケモンこそ、そのモデルとなった有名なねずみポケモンのピカチュウだ!「ピカチュウって、トキワの森にいたのか!!」テレビでしか見た事のない大人気キャラクターを目の前にして、まるで芸能人に会ったかのような感覚に捕らわれた少年は、キラキラと輝かせた瞳で見詰め、自然と握手をお願いするかの様に差し出された手を見たねずみポケモンが後ずさる。その行動を見て、ハッ!と我に返った少年。「しまった!ここにいるのは野生のピカチュウだ!何を握手会と勘違いしてるんだ!馬鹿か!」気を取り直した少年は、腰に掛けたモンスターボールに手を伸ばす。今度は違う感情でキラキラと輝き出した少年の瞳にピカチュウが映る「絶対ゲットしてやる!!」勢い良く突き出されたボールからポケモンが勢いよく飛び出してきた!「ゆけっ!コラッタ!」ボールから出て来た、ねずみポケモンと野生のねずみポケモンが睨み合い、威嚇する。コラッタは、少年がヒトカゲ強化の為、トキワシティ辺りの草むらでバトルを繰り広げていた時に、サクッとゲットしたポケモンだ。薄暗い茂みの中、先に動いたのは、野生のねずみポケモンだった!力を入れる様に構えた身体、頬っぺたの両側にある小さな電気袋そこから発電した電気の帯がコラッタを目掛けて飛んでくる!突然の出来事に戸惑い、少年の指示が遅れる。「かわせっ!」少年の掛け声と同時にコラッタの身体が電撃に包まれ、薄暗い森に一瞬、閃光が走る!「コラッタ!」声を上げる少年の傍らで【でんきショック】をまともに喰らい、バチバチと静電気で毛を逆立たせながら倒れるコラッタ。何とか起き上がろうとするコラッタに、もう一度【でんきショック】を叩きこもうと構えを取り電気袋を光らせる、ねずみポケモン。「まずい!このままだと二撃目もまともに喰らってしまう!」愛くるしいルックスとは裏腹に恐ろしく攻撃的なポケモンだということに、今更気付かされた少年の額から汗がにじみ出る。焦りながらも、冷静を保とうとする少年の出した答えは「茂みに身を隠せ!」その指示を聞き、痺れる後ろ脚で力一杯地面を蹴り上げ茂みに飛び込んだコラッタを追う様に野生のねずみポケモンの電撃が放たれる!バリバリと音を立て、狙いを付けた茂みに落ちた電撃が森にまた一瞬の閃光を生んだ!「コラッタはどうなったんだ!?」少年の不安な気持ちが表情となって浮かび上がる。それをよそに、きびすを返し、茂みの中へ逃げ去ろうとする野生のねずみポケモン。ガサッ!その物音と同時に逃げ去ろうとする野生のねずみポケモンの目の前の茂みから、勢い良く姿を現したのは、少年のねずみポケモンだった!「コラッタ!」声を上げる少年の目の前で、コラッタの勢いづいた【たいあたり】は、不意を突かれた野生のねずみポケモンの額にぶち当たる!その凄まじい衝撃に後方へ弾き飛ばされた、ねずみポケモンは落ちた先の茂みを激しく転がる!コラッタは間一髪で、あの電撃から逃れ、野生のねずみポケモンの背後へと回り込んでいたのだ。あれは間違いなく急所に当たった事だろう。「今だっ!」必死に起き上がろうする野生のねずみポケモン目掛けて少年は狙いを付けたモンスターボールを力一杯振り投げる!あの自己満爺の様に!少年の手元から投げられたボールは綺麗なカーブを描き、ねずみポケモンの額に当たる!ボールへと吸い込まれたねずみポケモン、ボールの真ん中にあるボタンの点滅が始まる。…静まり返った森の茂み、息を吞む少年の目の前で激しく転がり点滅するボール。中のねずみポケモンは必死に抵抗しているのだろう。右へ左へ転がるボール…。「ピカチュウ!仲間になってくれ!」少年がそう願った時、転がり回っていたボールのボタンの点滅が止まる。「…や、やった……」ピカチュウの入ったモンスターボールを拾い上げると、驚きと笑顔でコラッタと顔を見合わせる少年。「ピカチュウ ゲットだぜッ!」決めポーズと共に嬉しさのあまり、気付けばこの言葉を口にしていた。…大声で。恐ろしく攻撃的でかなりの苦戦を強いられたが、これからは味方と思うと心強い。昨日の敵は今日の友…そんな言葉をどこかの誰かが言っていた様な気がするが…「まいっか」そんな事を考えるよりも森を抜ける事の方が重要だ。「コラッタありがとう!ゆっくり休んでくれ。」頑張ってくれたコラッタと改めて顔を見合わせた少年はコラッタの戻ったモンスターボールを腰に掛けると深い茂みを避け、あまり草木の生い茂っていない道へと戻り、また歩き出す。薄暗く、木々の生い茂る森は、少年の視界の先で深々と広がる。