【初代ポケモン・赤】中二病ポケモンマスターへの道 ブログ小説⑥

ここはトキワシティの年中無休、24時間営業、しかも無料の神施設。言わずと知れたポケモンセンターだ。広々としたフロアには、今日も大勢の人が押し寄せ、大繁盛だ。その中で一人、カウンターに立ち、立ちはだかるトレーナー達のポケモンを次々と元気にしていく女医さんの『ジョーイ』さん。目の前で繰り出される、その目まぐるしい程の手さばきに「おおっ!」と声を出し、驚く人も少なくはない。無料で体力、異常までも全快してくれる、この神的存在に気付き、姑息に何度も利用する。その様な奴も少なくはない。ウィーン…入口の自動ドアが開かれ、白々しい苦笑いを浮かべ、ペコペコと小さく頭を下げながら中に入って来た少年。彼もその中の一人だ。「また、コイツか…」凄まじい手さばきを繰り出しながらも、入口から入り、カウンターへと列を成すトレーナーの群れの最後尾に付く少年を視界に捕らえた女医さんは、笑顔を絶やす事なく、営業スマイルで群れのポケモン達を全快してゆく。「次の方、どうぞ」遂にカウンターまで辿り着いた少年は、その言葉を聞くと笑顔でヒトカゲの入ったモンスターボールを手渡す。手渡されたボールに「やはりな…」営業スマイルで受け答えする女医さんの予想は的中した。ヒトカゲは毒に侵されているのだ。それもそのはずだ。ここを数分置きに嫌がらせの様に訪れている少年の神施設利用目的は、全て、毒の状態異常を回復してもらう為だったからだ。トキワの森へと足を踏み入れた少年は、薄暗い茂みの中、地面を微かな音しか立てずに、這い近づいてくるビードル達に気付く事が出来ずに、度々【どくばり】をもらうヒトカゲ。少年が気付いた時には、時すでに遅し。【どくばり】の針先に付く毒によって、森に入る度、毒に侵され、放って置いても治癒しない毒の状態異常。徐々に身体を蝕んでいく毒、このまま進んだところで、どの道、瀕死のヒトカゲを抱えたまま、結局、戻る結果になる事は目に見えている。そして、またここへ引き返して着ていたのだ。それを何度も繰り返し、今、目の前で満面の笑みを浮かべる少年。「学習能力の無い奴め…」そう思いながらも、笑顔で受け答えする女医さんには全てお見通しだ。『ねぇ この店の売れ筋は どくけし なんだって!』少年は、ヒトカゲが毒に侵される度、あの胡散臭いフレンドリィな店で買い物をしていた客の言葉を思い出していた。あの客が店で雇われたサクラだったのかは、さて置き、やはりあの森を抜けるには『どくけし』が必要不可欠だ。だが、後先考えずに有り金をほぼ全額モンスターボールを買う為に使ってしまった少年に『どくけし』を買える余裕などあるはずがない。機械が停止し、その上に並べられたボールがまた女医さんから少年へ手渡される。「お待ちどうさまでした!お預かりしたポケモンは みんな元気になりましたよ!またのご利用を お待ちしてます!」そんな定型文を言いながら営業スマイルで少年を見る女医さんに、白々しい微笑を浮かべ、ペコリと小さくお辞儀をした少年は、足早に入口の自動ドアから立ち去って行った。何度も見た、その申し訳なさそうにも見える少年の後ろ姿に「コイツ…また来るな……」と、呆れながらも、表情を崩さない女医さんは、列を成す来客の群れに微笑み、呼びかける。「次の方、どうぞ」今日も女医さんの営業スマイルは終わらない。日の光も遮られる程に木々や草花の生い茂るトキワの森。薄暗いこの森に再び足を踏み入れる少年は、忍び寄ってくるビードル達の【どくばり】にうんざりしていた。この森へ入るトレーナーのほとんどは『どくけし』を持参する。有り金をほぼ使い果たした少年は、気合でこの森を抜ける方法しかないのだ。だが、何度も訪れて行く内に、徐々に慣れてきた少年の目は、薄暗い森の地形がある程度見える様になっていて、ビードル達が這いずり回る深い茂みを避け、回り道でもあまり草木の生い茂っていない道を選び、歩き進んでいた。ガサッ!深い茂みの奥で何かが動いているのを確認した少年は息を凝らし、その茂みを見詰める。「芋虫野郎だと厄介だ。隙を見て立ち去ろう。」そう思う少年は、茂みから後ずさる。が、その茂みから少年の予想とは違う二つの耳が顔を出す!「何だ!?あの耳は!」『どくけし』を持っていなかった為、何度もこの森を訪れる事となっていた少年だったが、あんな形のしなやかに動く尖った耳を持つポケモンとは遭遇していなかった。【どくばり】を貰う恐怖心よりも好奇心が勝り、目を見開いた少年は、深い茂みを次々と搔き分け、遂に二つの耳へと辿り着く。「!!」驚き、目が更に大きく見開いた少年の目の前に現れたポケモンは、なんと、テレビでも大人気!CMでも引っ張りだこ!その愛くるしいルックスから、町のデパートでは、ぬいぐるみやキーホルダーなどを中心に数々のグッズが造られ、他の町ではその偽物グッズまで出回る始末!今、少年の目の前にいるポケモンこそ、そのモデルとなった有名なねずみポケモンのピカチュウだ!「ピカチュウって、トキワの森にいたのか!!」テレビでしか見た事のない大人気キャラクターを目の前にして、まるで芸能人に会ったかのような感覚に捕らわれた少年は、キラキラと輝かせた瞳で見詰め、自然と握手をお願いするかの様に差し出された手を見たねずみポケモンが後ずさる。その行動を見て、ハッ!と我に返った少年。「しまった!ここにいるのは野生のピカチュウだ!何を握手会と勘違いしてるんだ!馬鹿か!」気を取り直した少年は、腰に掛けたモンスターボールに手を伸ばす。今度は違う感情でキラキラと輝き出した少年の瞳にピカチュウが映る「絶対ゲットしてやる!!」勢い良く突き出されたボールからポケモンが勢いよく飛び出してきた!「ゆけっ!コラッタ!」ボールから出て来た、ねずみポケモンと野生のねずみポケモンが睨み合い、威嚇する。コラッタは、少年がヒトカゲ強化の為、トキワシティ辺りの草むらでバトルを繰り広げていた時に、サクッとゲットしたポケモンだ。薄暗い茂みの中、先に動いたのは、野生のねずみポケモンだった!力を入れる様に構えた身体、頬っぺたの両側にある小さな電気袋そこから発電した電気の帯がコラッタを目掛けて飛んでくる!突然の出来事に戸惑い、少年の指示が遅れる。「かわせっ!」少年の掛け声と同時にコラッタの身体が電撃に包まれ、薄暗い森に一瞬、閃光が走る!「コラッタ!」声を上げる少年の傍らで【でんきショック】をまともに喰らい、バチバチと静電気で毛を逆立たせながら倒れるコラッタ。何とか起き上がろうとするコラッタに、もう一度【でんきショック】を叩きこもうと構えを取り電気袋を光らせる、ねずみポケモン。「まずい!このままだと二撃目もまともに喰らってしまう!」愛くるしいルックスとは裏腹に恐ろしく攻撃的なポケモンだということに、今更気付かされた少年の額から汗がにじみ出る。焦りながらも、冷静を保とうとする少年の出した答えは「茂みに身を隠せ!」その指示を聞き、痺れる後ろ脚で力一杯地面を蹴り上げ茂みに飛び込んだコラッタを追う様に野生のねずみポケモンの電撃が放たれる!バリバリと音を立て、狙いを付けた茂みに落ちた電撃が森にまた一瞬の閃光を生んだ!「コラッタはどうなったんだ!?」少年の不安な気持ちが表情となって浮かび上がる。それをよそに、きびすを返し、茂みの中へ逃げ去ろうとする野生のねずみポケモン。ガサッ!その物音と同時に逃げ去ろうとする野生のねずみポケモンの目の前の茂みから、勢い良く姿を現したのは、少年のねずみポケモンだった!「コラッタ!」声を上げる少年の目の前で、コラッタの勢いづいた【たいあたり】は、不意を突かれた野生のねずみポケモンの額にぶち当たる!その凄まじい衝撃に後方へ弾き飛ばされた、ねずみポケモンは落ちた先の茂みを激しく転がる!コラッタは間一髪で、あの電撃から逃れ、野生のねずみポケモンの背後へと回り込んでいたのだ。あれは間違いなく急所に当たった事だろう。「今だっ!」必死に起き上がろうする野生のねずみポケモン目掛けて少年は狙いを付けたモンスターボールを力一杯振り投げる!あの自己満爺の様に!少年の手元から投げられたボールは綺麗なカーブを描き、ねずみポケモンの額に当たる!ボールへと吸い込まれたねずみポケモン、ボールの真ん中にあるボタンの点滅が始まる。…静まり返った森の茂み、息を吞む少年の目の前で激しく転がり点滅するボール。中のねずみポケモンは必死に抵抗しているのだろう。右へ左へ転がるボール…。「ピカチュウ!仲間になってくれ!」少年がそう願った時、転がり回っていたボールのボタンの点滅が止まる。「…や、やった……」ピカチュウの入ったモンスターボールを拾い上げると、驚きと笑顔でコラッタと顔を見合わせる少年。「ピカチュウ ゲットだぜッ!」決めポーズと共に嬉しさのあまり、気付けばこの言葉を口にしていた。…大声で。恐ろしく攻撃的でかなりの苦戦を強いられたが、これからは味方と思うと心強い。昨日の敵は今日の友…そんな言葉をどこかの誰かが言っていた様な気がするが…「まいっか」そんな事を考えるよりも森を抜ける事の方が重要だ。「コラッタありがとう!ゆっくり休んでくれ。」頑張ってくれたコラッタと改めて顔を見合わせた少年はコラッタの戻ったモンスターボールを腰に掛けると深い茂みを避け、あまり草木の生い茂っていない道へと戻り、また歩き出す。薄暗く、木々の生い茂る森は、少年の視界の先で深々と広がる。

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